え? 借金そんなにあるんですか?

「え? 借金そんなにあるんですか?」

「ワタシの計算のミニマムで1億でしたから……」


 翌日、私とぴーちゃんはエラ君に指定されたVRカフェで今後の方針について話し合うことにしたのだが、率直に今幾ら借金があるのか言え、と言ったところ出てきた額に愕然とした。


――2億! 2億て!


 え? サラリーマンが新卒で入社して定年退職するまでに稼ぐ額くらいじゃないの? はぁ?


「え……これ結構厳しいこと言うようなんですけど、その額の借金ある奴が恋愛とかしてる場合じゃなくないですか?」

「ワタシもそう思います」

「面目ない」


 ぴーちゃんが「嘘ではないと思います」って言ってるけど、そりゃそうでしょうよ。今はそういうAIギャグいいのよ。

 逆に2億あって「面目ない」って言ってるやつが内心は「2億くらい大したことねーだろ」とか思ってることってあんまないでしょ。

 2億円かぁ。かかわりたくねーなー。

 本気でちょっとリン&エラには別世界の人間であれ、と思ってしまう。


「はー、2億かぁ。なんでそんなことになったんですか?」


 アバター越しでもしっかり申し訳なさそうにエラ君は語り始める。


「サイボーグちゃんもいるし、嘘はないから全て信じてほしいんだけど、借金の理由は妹の手術費用なんだ。今の医療技術ならドナーからの移植を待たなくても人工臓器で大抵の病気は治るけど、それでも心臓となると手術の難易度は高くて、金額も最低1億くらいはかかっちゃうんだ」


 それは知ってる。ちょっと前までは事故死した人とかから臓器をもらう必要があったらしい。

 いつ自分の身体に適合する臓器が提供されるかもわからない。しかも何億もかかったという。

 そんな時代のことを考えれば、自分の細胞を元に高速培養したクローン臓器で健康を取り戻せて、1億で済むならまだ何とかなりそうな気がしないでもないが、それでも超高額であることに変わりない。


「僕と妹は施設出身でね、恥ずかしいことなんだが、世間をあまり知らなかったんだ」

「といいますと?」

「病院で僕らみたいな世間知らずで超高額医療を必要としている人間をカモにするような人間がいるなんて想像もしなかったってことさ」


 ちょっと話が変わってきた。

 私は話の続きを促す。


「施設や病院関係者と繋がっている悪い人っていうのがいてね。親切に相談に乗ってくれたんだ。最初はね。まんまと世の中には自分達みたいな人間に寄り添ってくれる人もいるんだと信じ込んでしまったわけさ。言われるがままに妹の医療費……最終的に1億5000万かかったんだけど……全額貸してもらってね。でも、その利子っていうのが法外な額だったわけだよ。ただ貸してくれるというだけでうれしくて、利子をちゃんと確認しないまま判子を押してしまったわけさ」

「弁護士とか警察に相談は?」

「できない。妹に危害を加えると脅されているからね。僕が昼の仕事とホストクラブで稼いだお金はほぼ全額取られて、利子分も減らないし、気がつけば借金は2億だ」

「妹さんはこのことは?」

「知らない。知らずに生きていってほしい。2億貰える生命保険でも入ることができれば、入って今すぐにでも死にたいくらいさ。でも僕のような人間はそういうことを考えがちなんだろうね。入れなかった」

「きっと別の方法があると思いますよ。一緒に考えましょう」


 私は珈琲を飲んだわけでもないのに、なんだか口の中が苦くなってきた。

 ぴーちゃんもそんな顔をしている。

 別にぴーちゃんに味覚とかないけど。

 ないよね?

 なんかVR上の飲食のリアクション見てるとちゃんと味がしてるように見えることがある。ホント、大学産の高性能AIすごい。


「いいのかい?」

「よくないですよ。でも仕方ないじゃないですか。あなた悪くないですし、友達が好きな相手には後ろ暗いところがない状態でいてほしいですからね」

「本当に申し訳ない。あの後調べたんだけど、君たち二人は本当に有名な探偵とアイドルだったんだね。二人に力を借りたらなんとかなりそうな気がするよ」

「任せてください……とは言い切れないんですが、できる限り力になります」


 といってもよ。2億円ってなんとかなるもの?

 ぴーちゃんも私と一緒に首をかしげている。


「とりあえず……リンちゃんにはあなたの王子は借金を返し終えたら迎えに来る、と伝えておきます」

「よろしく頼むよ」

「まぁ……なるべく早く迎えに行けるように頑張りましょう」

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