借金まみれの王子様

 ホストはぐったりと項垂れている。


「あなたが好きになった子はまだ学生です。裕福でもありません」

「借金を肩代わりしてもらおうなんて思ってないよ。正直、全然借金は減る気配ないけどね」


「嘘ではないと思います」ぴーちゃんが言う。

 嘘だったら助走をつけてグーパン叩き込んでるところだ。ここは安全ゾーンなので、アバターにもアバターの向かう側にも(仮に体感センサーをつけていても一定以上の衝撃はカットされる)ダメージは通らないのだが。


「今は思ってなくても、彼女が自分も一緒に返すと言うかもしれません。あなたに会うには自分も夜の高額の仕事をしなければならないかもと悩んでいました」

「そんな……いや、でも断るよ」

「断りきれるとは思えませんね。厳しいことを言いますが、あなたが一人で借金で首が回らなくなるのは勝手にすればいいですけど、友達を巻き込まないでほしいです」

「君の言うことはわかるよ。でも……彼女が好きなんだ」


 すると爺やがやってくる。


「エラ殿、そろそろお時間ですぞ」

「あぁ、すぐ行く」


 と言いながら、腰をあげようとしない。


「指名が入ったんじゃないですか? 行ってあげてください。私のアドレス送ります。連絡ください」

「あぁ」

「今のまま、二人を不幸にはできません。何か良い方法を一緒に考えましょう」

「せっかく来てくれたのにこんな話になってしまって申し訳ないね」


 私は「爺や、帰ります」と告げ、ぴーちゃん分と合わせて2000円のクレジットを支払い、立ち上がる。


「爺や、すまないが彼女達を送るから少しだけ次の姫にお待ちいただいてくれ」

「承知いたしました」

「行こう。探偵ちゃん、サイボーグちゃん」

「えぇ」


 私たちは来た道を戻る。

 シャンパンの一本くらい入れてあげてもよかったかな、とも思うが、エラ君はリンちゃんの未来の彼氏だ。

 私が貢ぐのはちょっと違う気がする。


「では、連絡お待ちしております」

「今日の仕事が終わったら連絡するよ。リアルとVRどっちがいい?」

「VRでお話ししましょう。あんまりリアルで会いたいタイプではないです」

「ははは、手厳しい」


 借金まみれで、客に惚れるようなダメ人間だしなぁ。嘘も吐けないし、口も軽そうだ。

 人の良し悪しとはまた話が違う。

 中の人バレ自体にそこまで抵抗があるわけでもないが、望ましいことではない。


     ※


「なんだか変なことになりましたね」


 私はぴーちゃんの宇宙船のような素敵な部屋にお邪魔していた。

 ついに特番にまで呼ばれるようになったアイドルの自宅で並んでおしゃべりだ。

 こっちの方が10万円以上の価値がある。


「普通に女たらしのクソ野郎だった方がマシですよ。幾らくらいの借金あるんでしょうね」


 私達は揃ってため息を吐く。


「ある程度はさきほど会話からでも推測できそうですけど、考えたくないですねぇ」

「さっきのお店での会話からですか?」

「えぇ。まぁ、本当にざっくりとは出せるんじゃないかと思いますよ」

「AIなのに全然わからないです」


 ぴーちゃんが落ち込んでいるが、これは単に考え方の話だ。


「AIの計算能力と探偵の推理力は別物なので気にしないでください……えーっとですね、昼の仕事は不明ですが、エラ君はバカ正直です。つまり妹の医療費というのは本当でしょう。今の医療技術で借金を背負うほどの治療というのは選択肢は限られます。人工臓器の移植あたりと仮定していいと思います。さらにきっとまっとうではないところからの借金でしょう。そこでの利子がどのくらいか。あとホストクラブの収入はランキング見ればある程度推測できますよね、それであまり減らないということを考慮したら出せないことはないのかなと」

「ワタシが複数パターン今計算したところによると……一番安いパターンでも1億はありそうです」

「ですよねぇ。そのくらいはありそうですよねぇ」


 少なくとも1億……2億3億とかも全然あり得ると思う。


「ワタシ達が肩代わりするにも高すぎますよね」

「私たちの全財産足しても全然足りないでしょうねぇ」


 ともかく友達の恋は1億で足りないということはわかった。

 なんとかなるのかなぁ。

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