多分それ騙されてる

 筋肉は奥が深い。

 というか、あの誰がどう見てもクソゲーとしか思えないイケメンボディビルダーの奥が深かった。

 攻略対象がどこの部位をどう鍛えているのかを見抜き、それに沿った的確なコメントで褒めないと好感度が上がらないのだ。

 その洞察力と、褒めワードの語彙力の要求は探偵兼作家である私に刺さらないわけない。

 コメント欄の筋肉比喩大喜利(藤堂ニコがなんて言いそうか当てクイズ)の回答欄としてもはちゃめちゃに盛り上がっていた。

 私がリスナーとして参加したかったくらいである。

 もはや恋愛感情の勉強とか関係ない。

 

 とか学食の席取りをしながら考えてたら、ピンク髪派手ファッションのお友達がやってきた。


「やっほー。昨日の配信盛り上がってたねー」

「ね、自分でやってても面白かった。切り抜きめちゃくちゃ再生されてるし、まーウケてるね」


 アーカイブのフル動画もとんでもないペースで回っているし、スパチャも追っかけでどんどん積み上がっている。ショート動画なんか一千万再生ペースである。

 みんな投げ銭するお金あるなら本も買いなさいよ。


「あーゆー、言い回しとかパッと出てくるのが小説書いてる人間の強みだよねー」

「探偵系小説家VTuberとボディビル恋愛ゲームの組み合わせが実はあんなにマッチするとは誰も思っていなかったからね」


 リンちゃんはいきなり少し遠くで談笑する集団を指さす。


「たとえばさー、あそこにラグビーかアメフトかわかんないけど、すごいゴツい人たちいるじゃん」

「いるねぇ。すごいよね。同じ人類だとは思えない大きさだよね」

「あの手前の坊主の人みたいなタイプが出てきたらニコちゃんはなんて褒めるの?」


 私はちらっとだけ見て、私の胴ほどある脚の太さに着目した。


「そびえ立つレオパルト2の2本の巨砲! お前のその大砲ならベルリンの壁もぶっ壊せる!かな」

「なにそれ、どっから来んのよ、そのボキャブラリー」

「西ドイツの戦車だよ、レオパルトツー」

「知らないけど、それが一瞬で出てくるのがね、面白いんだよねー」


 リンちゃんは大笑いしている。


「こういうのはなんか雰囲気でも高得点なんだよねー。正確にどこの筋肉がどうっていうのを緻密に評価してもいいんだけどね。けっこう感覚的にはゲームの評価アルゴリズムにマッチングできてきている気がする」

「次の配信も絶対リアルタイムで観よ。やる前に連絡してー」

「いいけど、今日はリンちゃんの話でしょ?」


 私の筋肉褒め大喜利をやってる場合じゃない。


「そうそう。VRホストクラブに行ったの! そこで運命の恋に落ちたの」

「リンちゃん……ホストクラブに本当の恋なんてないんだよ。それは騙されているよ……」

「そんなことないって、あたしのこと好きって言ってた!」

「それはね……みんなに言ってるんだよ」


 恋愛偏差値ゼロの私は今、彼女の恋愛が成就する可能性がゼロであることを即座に確信した。

 そして信じられないくらい冷静に友達を諭している。


「いや、マジでマジで。ちょっと聞いて!」

「聞くけどさー。聞くんだけどさー……嫌な予感しかしないのよ」


 私はめっちゃバッドエンドな気配を感じている。

 でも、たぶん私の世界はハッピーエンドタグとか付いている気がするというか、仮に私が炎上しようがどうしようが、周りの人たちはなんとか強引にでもハッピーエンドに着陸させたいとは思っている。

 でもなー、この展開でなんとかなるもんかなぁ?


―――――――――――――――――――

 一つお知らせがあります。

 本作品中でニコちゃんが別名義で書いているという設定の『夜道を歩く時、彼女が隣にいる気がしてならない』というホラー小説が書籍化することになりました。


 春頃(4月くらいと聞いています)にKADOKAWA文芸単行本(四六判)での刊行予定です。


 この作品というわけではないのですが、作中に登場する書籍ということでこちらでもお知らせさせていただきました。

 かなり改稿はしていますが、カクヨム上でお話の内容自体は同じ連載版はご覧いただけますので、興味をお持ちいただけた方はそちらも是非チェックしてみてください。

(もし気に入っていただければ書籍版をお買い上げいただけますと幸いです)


発売日が決まって予約がスタートしたところで、宣伝動画回をひっそりと書こうかなと思っていますが、読んでも読まなくても本筋にはまったく影響がない、興味がない方がスルーできるPR回としますのでご安心ください。

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