本当の恋なんてあるならお目にかかりたいもんである

「本当の恋ぃ?」


 私は猛烈な不安に駆られている。

 なんか嫌な予感がする。ひしひしと。

 ぜったい、やべーパターンでしょ。


[今度会った時に話す! あとちょっとお願いもあるんだ(人>ω•*)オネガイ]


「うーん……」


 私はとりあえず[内容による]とだけ返信しておいた。


 "今度会った時"とか書いてあるが、それは明日だ。

 明日は2限終わりで……お昼を一緒に食べる約束のはず。

 私とリンちゃんは講義の組み方が似ているので空き時間は割と一緒にいられるのだ。

 それぞれ文系と理系ではあるのだが、リンちゃんは数学専攻で研究室で実験に明け暮れるタイプの理系ではないので、割と文系ライクな生活を送っている。

 

 しかし、本当の恋だとか真実の愛だとかそんなもんがあるならお目にかかりたいもんである。

 名探偵である私の仕事はそういう胡散くさいものなど存在しないということを証明することだ。


 私はとりあえず『ディストピアホストクラブ』と『イケメンボディビルダー』を購入しておいた。

 私の購入済ゲームリストにこの2タイトルが並ぶことにはかなり抵抗がある。

 別に他人に見せるわけではないが、今後もゲーム選ぶ時になんかサイボーグとマッチョのイケメンが見つめてくるのかと思うと……なんか嫌だ。

 配信が終わったら、サムネイルの順番一番下にしてやろう。


 ちょっと配信してから寝るかぁ。

 私はヘッドセットを装着して、VR空間にダイブする。

 と同時にデザインAIが配信プラットフォームにすぐさまサムネイルを生成し、公開する。


 藤堂ニコがマッチョに囲まれ、ドン引き顔をしているサムネイルに『文化系引きこもり探偵 vs 体育系イケメンマッチョ』の文字と私の台詞で「筋肉なんかに私は堕とせない!」が入っている。

 このくらいの作業はもうAIにおまかせでなんの問題もない。

 私の好みや再生数が稼げる傾向も学習して作っているのだ。

 台詞にはまぁ引っかかるところはないでもない。でもAIギャグけっこうウケるからなぁ。


「はい、というわけで始まりました。今日はリクエストをいただいた『イケメンボディビルダー』の配信です。名探偵藤堂ニコの推理力を持ってすれば、身体ばかり鍛えている連中に好かれることなど容易いことでしょう」


[《¥2525》前回のダメっぷりでなんでそんな自信満々なんだよ]

[どの面さげて言ってんだ]

[たぶんニコは一日中筋トレしてる人より恋愛偏差値低い]


「はぁ⁉ なんなんですか、あなた達は。目にもの見せてあげましょう」


 このゲームで私がやることは、イケメンたちの肉体美を維持しながら、恋愛関係を発展されることらしい……らしい。


「とんでもないゲームに手を出してしまった。なぜ私がイケメンの筋肉の面倒まで見なくてはならないのか……」


[そういうゲームだからだよ]

[《¥2525》]


 そして金二区高校の学生となった私はボディビル部の扉を叩き……。


 気が付けば……。

「その上腕二頭筋にぶら下がりたい! 広背筋の翼で空も飛べるはず! その大腿四頭筋、チーターと良い勝負!」

 とか言って、叫んでいた。


 まぁ、他にもプレイ中色々あって、配信はたいそう盛り上がったのだがそれはまた別のお話。

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