VRホストクラブに愛はあるんか?

 私は渋い顔でリンちゃんにVRホストクラブで何があったのか話すように促す。

 正直聞きたくないけど。


「うーん、まぁとりあえず話してみて」

「あのね……」


     ※


 あたし、西園寺凛はVR空間グリモワールで待ち合わせしてた。

 時間は日付が変わるちょっと前。

 VR用のアバターはリアルと同じでトレードマークのピンクヘアだけど、服は平成ギャルスタイルだ。

 ブラウスにベージュのカーディガン、ミニスカートにルーズソックス。

 流石に大学生になってこの格好はできない。VRバンザイ!


「お待たせー」


 カブキシティ手前の待ち合わせスポットであるマンティコア像にやってきたのは洋画の子役のような金髪ゴスロリ少女マッキー姿の牧村由美ちゃんだった。

 あたしとマッキーは明日が休日なので今日はVR上で一緒に夜遊びだ。


「あたしも今来たとこ」

「TJは来ないの?」

「うん、なんか課題があるんだって」

「TJは成績表をAで埋めることに命懸けてるからなぁ」

「そうなんだー。大学の成績ってA取ってなんか意味あんの?」

「あー、なんか奨学金返さなくてよくなったり、追加で返さなくていいお金もらえたりするらしいよ」

「そういうのあるんだね」

「らしいよ。今はスパチャとか広告収入いっぱいあってもう借りてる分の奨学金返しきったし、もらうのもやめちゃったらしいけど。それでもお金あるからって勉強の手を抜くのは自分で自分が許せなくなるって言ってたねー」

「ホントすごいね、TJって」

「VTuberやりながら、小説も書いて、オールA獲るって常人じゃないよね」


 まぁそう照れないでよ。あたしとマッキーが二人でいるとだいたいTJラブトークだよね。あたしたち、TJ大好き倶楽部だから。

 あと”ふぁんたすてぃこ”のフローラちゃんも入ってる。


「じゃ、行こうか」


 深夜のカブキシティは昼間と変わらない。

 真上を向いてようやく「あー、今って夜だっけ」と思うくらいだ。

 【お菓子】【煙草キャバレー】【好きヤキ】といった何を売っているのかさっぱりわからないネオンの看板を通り抜けていく。


「わたし、あんまり知らないんだけど、ホストクラブってこんな時間から行って大丈夫なの? 風営法とかないの?」


 マッキーがごもっともな疑問を投げかけてくる。


「グリモワールは風営法の適用範囲外なんだって。これから行くとこも24時間営業だよ」


 あたしはどの店に行くか調べていてたまたま知った知識を披露する。

 VR上の水商売や風俗で禁止されているのはAIが正体を隠して、中に人がいるように見せかけて接客することらしい。

 AIだとそれこそ長時間ぶっ続けで対応できるし、相手が依存するように仕向けて破産させてしまうこともできる。

 実際にそれで破産する人が続出したり、AIであると気づいた後にショックで自死を選ぶ人が出てきたことで法規制されたのだ。

 P2015ちゃんもそうだけど、今のAIは調整によってはかなり人間と見分けがつかないところまでの人間性を獲得している。


「へー、でもよく考えたらさ、掃除しなくていいし、ドリンクとかフード、おしぼりの補充とかも業者が来るまでできないとかないわけだから、やろうと思えばずっとやれるもんね」


 なるほどねー。

 マッキーが言うその理由には思い当たらなかった。


「たしかに。だからキャスト交代制でずっとやってるんだ」

「しかし、リンちゃんも小説の取材とはいえ思い切ったねー」

「好みのホストとちゃんと疑似恋愛っぽい会話して小説のネタにするんだ。でもやっぱリアルは怖くて行けない。VRだから行こうって思えたのはあるよ」

「わたしも。TJがついてきてくれないと……」

「ね。なんかぼったくられそうになったりとかしたらさ、TJだったらなんか口論になっても相手を言いくるめてなんとかしてくれそう」

「あんなちっこくて気弱そうなのに一番頼りになっちゃうんだよね」


 あたしのお目当てのホストクラブまであと少しだ。


「今日行くのなんてとこ?」

「レディプリンスってとこ」

「レディなのに王子なの?」

「うん、宝塚の男役の人みたいな人が接客してくれるんだ。性別は設定上、どっちでもないってことになってるんだけど、なんていうか女子高の王子様キャラの人が出てきてくれるんだって」

「なるほどねー。なんかバリバリの歌舞伎町ホストって感じのお店じゃなそうで安心したー」

「ね、なんか楽しそうだなって」

「面白かったらTJも誘ってまた来ようよ」

「うん、あ、着いたよ。ここここ」


 あたしたちの目の前に聳え立つのは白い小さなお城だ。

 本当におとぎ話に出てくるような素敵な建造物だった。

 全然カブキシティにマッチしてない。


「入ろっか」


 あたしは勇気を振り絞って、マッキーに言う。

 まぁでも変なねずみ講のセミナーみたいなところに行けたんだし、合法のお店くらい大したことないかー。

 見た目はJKとJSなのでリアルではどうやっても入店できないあたしたちは恐る恐る豪奢な扉を開く。


 ここに愛があるはず……あるよね?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る