恋せよ乙女

「リンちゃんは恋愛モノ書くんだね」


 私はおしゃべりしながら、リンちゃんが書いた長編2本、短編5本を読破していた。

 今回は一気に読んでしまったが、家に帰ってもうちょっとしっかり読み込もう。といっても、それでも速いは速いのだが。

 ぴーちゃんに2秒で全ページ読まれるということにちょっとだけ抵抗あった。多分、リンちゃんも同じ気持ちだろう。自己満足かもしれないが、ちゃんと読むのだ。


「うん、そう。どうかな?」

「なんか、そんな緊張感出さなくても……友達に趣味の小説読ませただけでしょ」

「そうなんだけど、TJはプロだから」

「あんま売れてないけどね」

「ニコちゃんファンは買ってくれないの?」

「そうなんだよ! なぜか小説家藤堂ニコと探偵Vのニコのファンって被ってないの! ファングッズとして捉えてくれていない気がする! でもあんまりしつこく宣伝するのも気が引けるしさー、困ったもんだよ!」

「う、うん。すごい納得いってないのはわかった」

「これはいつか解き明かさなきゃいけない謎なんだけど、まずはリンちゃんの小説の話だね」


 一瞬、エキサイトしてしまったが、今は私が小説家としてあんま売れてないって話じゃない。


「えっとね、すごく上手でビックリした。比喩表現とかオリジナル?」

「好きな作家の影響は受けてると思うけど、全部自分で考えてるよー」

「すごいね。まだこんな表現が残ってたんだ。とにかく文章表現が綺麗よね。構成もしっかりしてる」


 私はとにかく読みやすけりゃそれでいい派だ。エンタメ系だから。

 あと文章や表現が独特だと、そこで変に伏線だとか勘繰られるとミステリーなんて成立しないし。そういうのはミスリードするところだけでいい。


「面白かった」

「よかったー」

「ちなみに私はお世辞とか言えるタイプじゃない」

「あはは、知ってるー」

「知ってたか」


 まぁ、そういうわけで本心から言っている。文章表現だけでいえば私より上手いとおもう。


「どこか良くないところってあった? 公募とかも出すんだけどさー、一次は通ってもその先になかなか進めないんだよねー。一回だけ二次通過したけど」


 私は友達の作品に対して、どこまで正直に言うべきか決めかねていた。

 指摘したことで傷つけたりするのではなかろうか。


「うーん……そうだねぇ」

「正直に思ったこと言ってくれていいよ。そりゃ、めっちゃ傷つくような言い方されたら嫌だけどさー。悪いところも教えてもらわないと成長しないじゃん? あたし、書籍化目指してるし」

「そうなんだ……」


 で、あれば少し耳に痛いかもしれないけど……言ってみるか。


「なんかね、恋愛要素がすごく定型的というか、ヒロインが王子様みたいなイケメンとくっつくだけなのが勿体ないかなって。まぁ、恋愛モノってだいたいそうなんだろうけど」

「作り物っぽいってこと?」

「まぁ……そうだね。起こるイベントとか言ってることとかはどこかで読んだことあるなーみたいな。リアリティっていうのがちょっと物足りないかも。ありきたりな流れも上手い文章でそういう風に感じさせないようにはなってるんだけど……限界あるかなって」


 リンちゃんは「やっぱ、そうかー」と呟いた。


「自分でもわかってはいるんだけど、いかんせん恋愛経験ないからね」

「私もないよ、そんなもん」

「TJは恋愛モノ書かないから別にいいじゃん」

「ミステリー書くからって人殺さないし、ホラー書くからって幽霊見たことあるわけじゃないけど……まぁ、読む側もそんな経験ないからね」

「ってことだよねー。やっぱさー、あたしって所詮は自分が読んできた作品をベースにつぎはぎしてるだけになっちゃうのよ。リアルな恋愛したいわー」

「したいかぁ? 面倒くさそうだから、私は嫌だな」

「花の女子大生とは思えないなぁ、TJは」

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