探偵に恋愛とか必要ない

「花の女子大生って感じじゃないかもしれないけど、私には謎と小説だけあれば十分だからなぁ」


 本当に十分かはよくわからないけど、まぁ特に現状他のものを欲してはいない。


「TJは合コンとか行かないの?」

「行かないよ。都市伝説でしょ。私の観測範囲ではそんなの開催されてたことないよ」

「都市伝説ではないよ。あたしも行ったことはないけど」

「リンちゃんもないんじゃん」

「行ったことはないけど、文芸サークルでもやってたよ。他大の文芸サークルの男の子とやるっていうのは聞いてた。マッキーはめちゃくちゃ誘われてたみたい」

「あー、まぁ、そうだろうね」

「あたしも誘われたことはあるんだけど、社交辞令なのかガチなのか判断つかなくて行けなかったんだよねー」

「それはなんとなくわかる。合コンとか連れて行かれてもどうせ数合わせか、私を見下して自分を相対的に良く見せるための噛ませ犬要員なんだろうなって思っちゃって多分行けない」

「いやぁ、あたしはそこまでは思わなかったけど……TJの推理はたまに推理じゃなくてただの行き過ぎた被害妄想なことがある気がするよねー」


 そう言って、ケラケラ笑った。

 そうこうしていると……。


「あ、来たよ。寂しがりが」


 一見優雅っぽいが、明らかに早歩きの長い脚が。

 遠目に見ると脚が占める割合が大き過ぎるように思える。


「お待たせ」

「いや、別に待ってない。ってか、講義終わったらマッキー来ること忘れてたし」

「一生懸命急いできた友達に対して最初にかける言葉がそれって! 残酷過ぎるでしょ」

「ごめんごめん。まぁ、座りなよ」


 マッキーが荷物と手に持っていたタンブラーをテーブルに置いて、腰掛けるや否やリンちゃんが質問を投げかける。


「ところでマッキーは合コン行ったことある?」

「ないなぁ。死ぬほど誘われてきたけど、そういうの週刊誌に撮られるの嫌だったし。え、なに? 二人が合コンやるって話? それならわたしも行くけど」


 こいつの推理力は下の下であるな。

 私が合コンなんてやるわけがない。


「やんないよ。面倒くさい」

「あはは、そうだよ。マッキーが文芸サークルいた時、いっぱい誘われてたでしょ? 一回くらい行ったことあるのかなって」

「そういうことかぁ。まぁ、冷静に考えて、TJが行くわけないか。でも、マッチングアプリとかも何の接点もない知らない人と会うなんて冗談じゃないとか言うでしょ?」

「その通りだね。絶対イヤ」

「TJはどうやって、恋愛すんの?」

「だから、興味ないって。まぁ、私のことはいいのよ」

「いいんだ?」

「私はいいのよ。リンちゃんの話だから」


 リンちゃんは自分が恋愛小説を書いているのだが、恋愛経験ゼロであり、描写にリアリティがないことが悩みなのだと説明する。


「はー、なるほどねぇ」

「マッキーにもフラれちゃったしね」


 別にリンちゃんがそう言ったところで気まずい雰囲気にはならない。


「そりゃね。わたしも恋愛とかそんな興味ないからね。ってか、そもそもリンちゃんの恋愛対象って女の子なの?」

「あー、どっちも」

「どっちも大丈夫なタイプなんだ」

「と、思ってるんだけど、まぁ付き合ってみないとよくわかんない」

「へー」


 マッキーはなるほどねー、とか言ってる。


「実際に彼氏彼女ができてっていうのはまぁ理想なんだけど、まずそもそもでちゃんと恋愛対象になりそうな人と喋ったりってとこから取材していきたい次第だよねー」

「そういう出会いってのは待つしかないよねー」


 私はもうよくわからないのでそんな薄っぺらいことしか言えない。


「とりあえず練習とか擬似的なのでいいなら、グリモワールのあそこ行けばいいじゃん。なんだっけ……」


 マッキーが言わんとすることを私は考える。

 グリモワールで擬似恋愛をするところ。多分、アイドルの現場ではない……。


「え? ホストクラブのこと言ってる?」

「それそれ。なんかあるでしょ、そういうの」

「そんなの考えたこともなかったな」


 リンちゃんは逡巡した後、こう言った。


「行ってみよっかな」

 


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