リンちゃんもまた名探偵なのかもしれない

 私はリンちゃんが投稿サイトに載せている作品を一気に読み切る。

 10万字程度ならスクロールを一瞬も止めなくていい。


「それ、読めてるの?」

「読めてる。速読できるって言ったでしょ。私、中学生まではフラッシュ記憶で教科書配られた初日に全ページ暗記してたから」

「尋常じゃないね。教科書持ち歩かなくていいじゃん」


 リンちゃんは大笑いしている。

 読むのは早いが会話しながらとかだとスピードは落ちるのだが、まぁいい。


「教科書に書き込んだりとかするし、暗記してるからって手ぶらで学校来るような奴が浮くというくらいのことは名探偵だからわかってたよ。ちゃんと机に入れっぱなしにしてた」

「持っては帰らないんだ。ウケる」

「ま、ちゃんと授業中に机に教科書出してても浮いてたけどね。これはもう解けることない謎ね。なぜか先生からも嫌われてたから」

「TJは先生ウケ悪そうだからねぇ」

「謎よね」

「謎かなー? 自分より頭が良さそうな子嫌いな先生っているじゃん。それだと思うな。あたしはバカそうなのにちゃんと勉強してたから先生ウケはよかったけど。TJに見下されてるって思う先生もいたんじゃない? TJはナチュラルに先生のプライド傷つけてそう」


 なんかトボけた顔して、すごい芯を食ったことを言ってくるな……。

 思い当たるフシがめちゃくちゃある。


「リンちゃんも名探偵の素質があるのかもしれないね」

「んんー、これは推理とかじゃなくて、他人の視点に立って考えるとかそういうことだと思うなー。あたしはさー、自分のキャラが環境にマッチしてなかったわけだけど、TJは頭がいいから出来ない人の気持ちがあんまりわからないんだと思うなー」


 私は今、思い当たるフシに殺されかけている。


「なんかそう言われるとそうとしか思えなくなってきたし、遡って人を傷つけたかもしれないということに自分が傷ついているよ」

「あはは、もう終わったことだし、前向いてこうよ。TJはさ、ニコちゃんの活動通して人の気持ちが理解できるようになってきてると思うなー。あたし、そんなに藤堂ニコのチャンネル熱心に追ってきたわけじゃないけど、初期の人狼とかやってる時は頭キレ過ぎてたし、対戦相手の詰め方ちょっと怖かったけど、どんどん人間味出てきてるのわかるよ」

「お、おう。なんか私のコスプレしてたピンク髪ギャルが言ってるということに脳がバグりそうだけど、百パー言う通りなので私は言い返す言葉もないよ」


 私は人の心がないモンスターだったのかもしれない。

 最近、なんか愛について語りながらキレたような気もするが。

 でも、その愛もドルオタ的な擬似のやつで本当の愛かは知らんけど。


「あ、読み終わりました。リン先生」

「あはははは。なにそれ。で、どうだった?」


 なんだかんだ話しながらも私はリンちゃんの作品をしっかり読んでいたのである。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る