VRのシンデレラ編
やーめた
「あたし、文芸サークルやめてきた」
「お前もかよ!」
大学のカフェテリアで講義の合間の時間を潰していたとき、唐突にサークル辞めた宣言をするピンク髪の派手ギャル西園寺凛ちゃん。
私の周りの人間はなんでもすぐやめるな。
「なんで?」
「だってさー、文芸サークルっていっても、なんか知識マウントとかウザいしー、その割に公募に出すでもないし、なんか向上心もないしさー。あたし、髪ピンクにしてからめちゃくちゃ浮いてるし」
「ここ大学だよ? 髪染めたくらいで浮かないでしょ」
「なんか保守的なんだよねー。謎に。高校の部活みたいなの。マッキーも浮いてたし。かといって、それに抗おうってほどサークルに愛着もないからね」
「そっかー。ギャル研とかあればいいのにね」
「あはは、それはあったら入る。でもさ、マジな話、TJが友達になってくれたからってのはあるよ。だって、今度デビューするとか言いながらもう本出してんじゃん。藤堂ニコ名義で」
「あぁ、そうね」
そういえば、リンちゃんには当初ホラー小説でデビュー予定だから取材したいっていう体で話していたのだった。
「あ、そうだ。サインちょうだい。今日持ってきたんだ」
そう言って、リンちゃんは鞄から私の著作を3作全部取り出した。
どれもブックカバーがかけられていて、丁寧に読んでくれているのがわかる。
「まぁ、いいけど、私のサインなんかいる?」
「いるいる。TJって自分が思ってるより有名人だよ」
「私自身っていうか、作品とか分身なわけじゃん、それって。大学生の東城がこうして書いてるサインってそれとリンクするのかなーって。たまにVtuberのニコちゃんのサインとかグッズ欲しいって言ってくれる人いるけどさ」
私はそう言いながら、単行本の見返しに遠慮がちなサインを書いていく。
書き慣れていないので、結構遅い。
「はい、できた」
「ありがとー、サインかわいいね。これ自分で考えたの?」
「まさか。デザイナーさんに作ってもらった。1万円とかだったかな。デビュー決まった時にサインのデザインやってる業者さんに依頼したの。まさか、こんなに書く機会ないもんだとは思わなかったけどさ」
「実家とか地元の友達とか欲しいって言ってこない?」
「こないこない。私、親に言ってないもん。藤堂ニコやってること。あと、地元に友達とかいないし、いたとしても教えない。Amazonに星1レビューとか付けてきそうじゃん」
地元に友達はいないし、同級生の名前もほとんど覚えていない。
上京志向が強くて少し浮いていたのもあるし、なんかの折に小説家になりたいと言った時に笑われてから地元の連中に対して心を閉ざしたのである。
もはや顔も名前も覚えていない連中に対して許すとか許さないとかではないが、わざわざ教えるようなことでもない。
あと連絡先も知らないし、実家の方に案内が来るであろう成人式後の同窓会にも出る気ない。そもそも成人式にも行く気ない。
「親に言わないとかあるんだ」
「扶養外れてるからね。バレることもないんだ。でも、次のホラー小説の方は名義教えてあげようかな、ってちょっと思ってるけど」
「へぇー、まぁ、わかるなー。あたしも似たようなもんだな」
つい最近まで地味キャラに擬態していたこと友人はどっちのキャラでも地元で浮きそうなオーラを放っている。
「地元のリンちゃんはどっちバージョンだったの?」
「ケバいギャル風。でも根が真面目で勉強はできたからね。真面目グループにも不良グループにも入れずに浮きまくってたね」
「なるほどねー、まぁそうなんだろうなって感じする」
「リアルの人間関係むずいわー」
人間誰しも何かしら問題を抱えているのだろうが、なんだかんだこうして問題抱える者同士で寄り添って成立する関係もあるのだろう。
「そういえばリンちゃんが書いてる小説読ませてくれるんだっけ?」
「本当に読んでくれるの?。なんか既に何冊も出してるプロに見てもらうの気が引けちゃってさぁ」
「いいよ、別に。暇な大学生だからね、友達の作品くらい読むでしょ。私、かなりの速読だから気にしなくていいよ。それに本は出たかもしれないけど、気分的には本が出ただけのアマチュアだよね」
「そんなもんかー。でも、嬉しい。すぐ投稿サイトのURL送るねー」
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