黒い服しかないけれど

 きちー。

 知らない奴に「私ー、神様に興味あるんですけど、お話聞かせてもらっていいですかー?」って言いに行くのきちー。


「でもさ、私みたいな黒い服しか持ってない根暗オタクにそんなこと言われたら相手も警戒しない?」

「大丈夫、相手も似たようなもんだから」


 はい、バッサリ。

 そりゃそうでしょうよ。

 しかし、そいつよくモデル様の告白列に並ぼうと思ったな。

 私と違うのはその謎の行動力だ。


「でも、私と似てるならマッキーは好きじゃん」

「別にわたしは黒ずくめの陰気な人が好きなわけじゃないからね。言っとくけど。それにTJはもっと可愛い服着てもいいと思うよ。顔はまぁまぁ可愛いんだし。メイドとかコスプレじゃなくて私服の話ね、もちろん」


 まぁまぁってなんじゃい!

 めっちゃ可愛いわい!


「私も可愛い服着たい気持ちはあるよ? でも、服を買いに行くために着る服がない」

「出たよ、ネットでよく見るやつ。そんならわたしの服貸すって」

「身長差を考えて言えよ。キョンシーみたいな袖で、スカートの裾引き摺りながら服屋行けないでしょ!」

「折って、ピンで留めたらいいじゃない」

「よくないわ。前衛ファッションかと思われるわ。そんなら黒ずくめでいいよ」

「いつもの喪服コーデね」

「喪服コーデとか言うな!」

「まぁそうカッカしないの。今度一緒に服買いに行ってあげるから」

「それは遠慮しとくけど、相手が同類なら会話がスムーズにいくか、コミュ障の負の連鎖が起きてなにも進まないかのどっちかしかないから、割り切れるね。前者に賭けよう」

「じゃあ、行こうか」

「おっけー」


 私達は大学のサークル棟に向かうことにした。

 ちょうど三限が終わる時間だ。

 目的の人物をサークル棟のエントランスで待ち伏せることにしたのだ。

 どうせここを通るのだ。そこで呼び止めてしまえばいいい。

 相手はマッキーのことが好きなのだ。私一人ならともかくマッキーが一緒にいたら話くらいは聞いてくれるだろう。

 まぁ、サークル辞める時に隣のこいつがどういう態度を取っていたのか次第ではあるだろうが。

 涼しい顔をして見たことねー美容水みたいなやつを飲んでいるがトラウマになるようなフリ方してないだろうな?


「どした?」

「どうもしないの。ちゃんと入口見張ってて」

「はいはい。でもさー、こうしてると本当に探偵みたいだね」

「これでお金稼いでるんだから、本当に探偵なんだよ」

「たしかにね! わたし、探偵助手だ! 名探偵ニコ&マッキー! テンション上がるー」

「ニコって言うな。公共の場で」

「卑猥な言葉みたいだね」マッキーが小声で囁く。

「うるせー」


 私は本人の特徴は知っていても実物を見たわけじゃない。

 学生がいっぱい来ると見逃してしまうかもしれないのだ。マッキーには真面目に見張りをしてほしいものである。


「あ。来たよ」

「え、嘘。あの子?」

「そう」


 マッキーが指差したのは黒ずくめでボブカットの……なんか私みたいな女の子だった。


「女の子じゃん」

「言ったじゃん。TJみたいだよって」

「女の子だとは聞いてなかったけどね」

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