囮捜査

「えー」

「頼むよー、マッキー」


 私の家でゴロゴロしている牧村由美にとある頼みごとをしたのだが、ものすごく嫌そうにされている。


「頼まれてもなぁ……うーん。きっついなぁ」

「告白列に並んで、変な勧誘してきた奴呼び出して、神様ってなんなのか訊いてよー」


 マッキーの肩を揉みながら、ちょっと媚びた声を出してみたりなんかする。


「なにがキツいって、私そいつの連絡先知らないし、既にサークル辞めてるからね。大々的に辞めておいて、告白してきた変な奴に会いに戻ってくるなんてヤバい奴過ぎでしょ」

「すでに十分ヤバいヤツだから大丈夫だってー」

「ヤバくねーわ!」


 マッキーが笑いながらツッコんでくるが、マジでヤバいヤツやっちゅーねん。


「ってかさ、なんでリアルで聞かなきゃいけないのよ? 説明をしてよ、説明を」

「あぁ、言ってなかったっけ?」

「言ってないねぇ」


 そういえばなんでマッキーにそんなことを頼むのかという説明をすっ飛ばしていた。

 いけないいけない。


「神様が何かっていうことについてはぼんやり予想はついてるんだけど、それがなんでVR上では噂にしかならなくて情報屋でもなかなか尻尾を掴めないのかっていうのが今回のポイントなのよ」

「予想はついてるんだ?」

「実際に見てみないと断言はできないけどね」

「うーん、わたしにはまだよくわからないな」

「追って話をすると……まず神様というアイドルオタクにとって何かしらすごくいい、なんならもう現場に行かなくてもいいようなものがあると。で、それを匂わせた人は何故か詳しくは語ってくれない。ここまではOK?」

「うん」

「で、神様を見た人は何かリアル側で体調に重大な異変が起こって、強制ログアウトさせられてしまったわけよね。つまりただの都市伝説ではない、何かが起こってる。で、私は考えたのよ。たった一人が言ってるだけならちょっと変わった人がいるくらいの話なんだけど、噂にはなるくらいの規模なのになかなか詳細に知ってる人はいない」


 私はマッキーの顔を見ると頭をフル回転させているのがわかる。


「ギブアップ。なんで?」

「リアルで勧誘してるっていうのが私の推理」

「あー、でもなにを勧誘するの?」

「それは実際に見ないとわからないけど、何か非合法なものの売買かカルト宗教か。リアルとVRで勧誘とか商品のやりとり、金銭のやりとりを分けてるんじゃないかって思ってるの」

「なるほどねー」

「VR上で勧誘自体はしないけど、餌を撒く。それなら通報されてログを確認されてもいいわけ。リアルで勧誘する。で、またVRのクローズな場で商品や金銭の交渉をするとかかな。リアルで勧誘を咎められても、現実にはそういう団体は存在しないから足もつかない」

「それでリアルで話を聞いたわたしの出番なのね」

「そう、推理が合ってるか確かめられるし」


 マッキーが眉間に皺を寄せて逡巡した後こう言った。


「よし、一緒に行こう。TJが興味あるらしいって紹介してあげる。それならいいよ」

「そうきたか」


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