TJジェネリック

「西園寺さん、ちょっといい?」


 お目当ての人物は西園寺というらしい。

 彼女は切れ長の目を見開き、一瞬笑顔を見せるが私の姿を見て表情を曇らせた。

 全部顔に出るタイプだ。


「牧村さん、どうしたの? 今日は違うサークル?」

「ううん、西園寺さんに会いに来たんだよ」

「ホント?」

「私じゃなくて、こっちの友達が。東城さんって子。学部の友達なんだ」


 そう言って、マッキーが私を紹介する。

 最初にちょっと期待を持たせる嫌な言い方するなぁって思った。

 だから、友達少ないんだよ。

 ナチュラル畜生だ。

 告白列に並ぶような好意を持ってる相手が会いに来てくれたら喜ぶだろ。

 こいつは生まれてこの方、モテにモテてきたが故に他人からの好意に鈍感になってしまっているのだ。


「そう……」


 ほら、あからさまにガッカリしてんじゃん。

 なんか髪型とか服装が似てるから親近感湧いてちょっと可哀想になってきた。


「うん、そう。なんかこないだVRで神様がどうこうって言ってたでしょ? 東城さんが気になるっていうから連れてきたの」


 うん、そう、じゃねーよ。サイコパスかよ。大学で他の人にどういう感じで接してるのか知らなかったけど、そりゃサークルでも浮くわ。

 コミュ障十段の私でもわかる。マッキーは第一印象と外ヅラはいいが、興味のない人間に対して冷た過ぎる。


「あ、でもマッキーも一緒に話し聞いてくれるんだよね? 三人でカフェでおしゃべりしよ」

「牧村さんもきてくれるの?」

「行くよ。TJの助手だからね、わたし」

「助手? 同じ研究室とか?」


 文系なので研究室とかない、別に。ゼミの所属も任意だし、3年生からだ。

 だけど……VR探偵の助手とか言えないので。


「うん、そう」


 って私もそう言うしかなかった。


     ※


 いつもお馴染み大学のカフェテリアだ。

 西園寺さんは別にサークル活動のために来たのではなく、次の講義まで一コマ分暇になったので部室で時間を潰そうと思っていただけということで素直についてきてくれた。


「西園寺さんは私たちと同じ二年生?」

「うん」


 西園寺凛さんは教育学部数学科の二年生らしい。マッキーとは文芸サークルで知り合ったそうだ。

 ただマッキーはもう辞めてしまったのであと一つしかサークルに入っていない。

 最初五つ入ってたサークルがあとひとつって……。


「なんで告白列に並んで、神様の話なんてしたの?」


 私はもう単刀直入に聞いてしまうことにした。


「それは…………」


 私に似ているのは見た目だけではなくコミュニケーション能力の低さもだ。

 なんだか聞き取れない声でごにょごにょ言っている。

 まぁ、質問はしたもののなんでかはだいたいわかる。


「マッキーがサークル最終日で仲良くしたいから何かお話ししたかったってことだよね? でも、謎の告白列ができちゃって、それが途切れたら帰っちゃうだろうからあわててそれに並んだはいいけど、告白したいわけじゃないから何か話題振らなきゃって思って、パニクって神様の話しちゃったとか?」

「うん、そう……」


 今日は一人一回「うん、そう」を言うターンが回ってくるな。


「そういうことだったんだー。それならそう言えばいいのにー」


 サイコは気づいていなかったらしい。マジで自分に告白しに来て、意味わからんことを言って去っていった奴としか認識していない。

 普通におしゃべりできるならしてる。できないから、意味わからん神様のこととかを口走ってしまうのだ。

 マジでこんなのと仲良くしなくていいと思う。


「まぁ、普通のおしゃべりはまたするとしてさ、VRの神様っていうのが何かっていうのに私は興味あるんだ」

「そうなの? なんで?」

「えーっと、私ね小説書いてて。そのネタになればいいなって」


 私は一瞬、ニコ名義の作品のことを言いかけたがやめた。

 小説のことを言うと自分がVであることと、この場が捜査のための聞き取りだと芋づる式にバレてしまう。

 と思ったが。


「今度、ホラー作家としてデビューすることになって。でも二作目のネタとか全然なくて困ってたんだ」

「え、東城さんってプロなの? うちのサークルに入ればいいのに。みんなにちやほやされるよ」


 そういえば、別ペンネームで本を出すことになっていたのだ。

 リアル側でVであることを明かせない調査の時に、取材の名目で話を聞ける。

 ナイス私! ナイス閃き!


 急に西園寺さんの私を見る目が変わったのもわかる。


「そっか、プロ作家なんだ。すごいなぁ。やっぱりそういうすごい人だから牧村さんと仲良しなんだね」

「うーん……そう……なのかな」


 そういうわけではないが、まぁとりあえず話はしてくれそうだ。


「じゃあ、今度私が書いた作品とか読んでくれたり、小説の話一緒にしてくれる? それなら神様のこと教えてあげる」

「もちろんもちろん」

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