お宅訪問
私は付与されたパスでそのまま玄関の中に入っていく。
「オカエリナサイマセ、ゴ主人サマ」
ぴーちゃんが玄関でジャパニーズ"ドゲザ"スタイルで私を出迎えてくれた。
「いやいやいやいや! なにやってんですか、ぴーちゃん!」
「コレがオキャクサマをオ迎エするトラディショナルスタイル……」
「んなわけないでしょ! 普通にやりましょう。普通に!」
開始早々ドッと疲れた。
サイバーパンクアンドロイドボケをかましてくるとは。
別に地面が汚いとかそういうことはないのだが、やはり土下座に抵抗はある。する方もされる方も。
[ビックリしたな]
[ニコもマジビビりだったじゃん]
[《¥500》サイボーグギャグは予想不可すぎる]
「いいからいきますよ」
「スベってしまいマシタ」
「あれがウケるのは200年後でしょうね。おじゃましまーす」
やっと玄関から廊下だ。
ちなみに靴とかは履いたままだ。脱ぐとかいう概念がない。VR上。
「コチラがトイレで、コチラがバスルームです」
廊下を歩きながらぴーちゃんが指を差す。
一応、チラッとだけ見るがまるで生活感はない。というかシャンプーやらタオルやらの必需品があるわけではないので、まだ入居者がいない新築のようだ。
デザインはキャラクターに合わせているようで近未来的で宇宙船のようだった。
VRカフェもそうだったのだがあそこは雑居ビルの一部の装飾に対して、こちらはもう家全体を小型の宇宙船に模してあるかのように感じる。
「宇宙船みたいですね」
「オ目が高イ! ソノ通りデス! そういうコンセプトなのデス!」
合っていたらしい。
「左手がキッチンで、ココからリビングダイニングデス。リビングは後回しで、ベッドルーム、趣味の部屋、和室、洋室を見て回りまショウ!」
「和室!」
[和室があるのか]
[ってか、こんな広い4LDKってリアルだと1億じゃ足りないだろ]
[《¥4000》ぴーちゃん、金持ってんなー]
[《¥2525》でもスパチャしてしまう]
[《¥10000》オモシロ可愛いにお金払わせてもらってるから当然]
ちなみに今日の収益は折半である。
そして、私はそれぞれの部屋を覗いていく。
「ひえー、めっちゃデカいゴジラがあるー。2メートルくらいですか」
「ベッド、これキングサイズですよね。あなた寝ないでしょ!」
「和室もおしゃれー。高級旅館みたいー」
で、なんだかんだリビングでようやく落ち着いてソファに腰掛けた。
ぴーちゃんもまた意外性の女だ。
ソファは真っ白でリアルだと汚れが恐ろしくてとても置けないようなものだったが、VRならずっとキレイなままだ。
とにかく私の全体的に茶色い部屋とはまるで違う明るさのある家だった。
これまでホームレスでマネキンと一緒に並んで海を見ていた毎日が終わったのだとようやく私は実感して、なんだかしんみりしてしまった。
――よかったなぁ。
「ニコちゃん、いかがデシタカ?」
「すばらしい家ですね。楽しかったです」
「それはヨカッタデス。最後に一つお願いがあるんデスが……いいですカ?」
「なんでしょう?」
「カラオケができる機材も買ったノデ、締めに一曲デュエットしまショウ!」
[《¥1000》ぴーちゃんの持ち曲うたってー]
[《¥3000》楽しみー]
「…………謀ったなぴー!」
「コメントでミンナが望んでいるようだったノデ……ゴメンナサイ」
[シャアみたいに言うな!]
[888888]
こうして私のデジタルタトゥーが一つ増えたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます