AIは幽霊を信じるか

 とりあえず新たな恥をさらして、生配信は終了となった。

 配信終了後もコメント欄ではニコの歌は上手いのか下手なのか論争で盛り上がっている。

 論争というが、別に争ってはいない。

 文字列からはどちらの陣営も半笑いであることが伝わってくる。

 みんなの笑顔が文字の向こうに見える。


 ――文章の表現力ってすげー。


 とか真顔でコメント欄を見ている。

 なんか音大の院生とか専門家まで出てきて私の歌唱力とか表現力について語り出してきてカオスだ。

 こいつら、やっぱ私のアンチなのか?

 歌で感謝を伝えたはずが完全にオモチャにされている。

 思ってた喜ばれ方とちょっと違う。


「ニコちゃんへの愛ゆえにですよ」

「そうですかぁ?」


 全然愛されニコちゃんって感じじゃない。

 でもぴーちゃんはマジで愛されている。

 キャラも境遇もつよつよである。


「ワタシもニコちゃんの歌好きです」

「それが嫌味に聴こえないところがぴーちゃんのいいところですね」


 マッキーが「わたし、TJの歌好きだよ」とか言っても、絶対本心からとは信じられない。

 というか、もうあいつが今にも吹き出しそうになりながら言ってるのが目に浮かぶ。

 ともかく私は探偵であって、ヘタウマ歌手Vtuberではないのだ。


 私たちはソファに並んで座って、ふぁんたすてぃこのライブ動画を流しながらおしゃべりを続ける。


「ニコちゃんは最近は探偵業はおやすみ中ですか?」

「事件が起きませんからねぇ。あと自作のホラー小説の改稿とかでちょっと忙しかったのもありますし」

「あ、新作出るんですね。出たら読みます」


 電子書籍版はVR上でも読めるので、ぴーちゃんも読むことができる。

 たぶん、2秒くらいで全ページ分読まれちゃうと思う。


「AIも本って読むんですね」

「読みますよ。あとニコちゃんはワタシがAIだから2秒くらいで一所懸命書いた本を取り込まれちゃうんだろうなーとか思ってるかもしれませんけど」

「思ってない思ってない」


 AIの計算能力やべー。

 本気で推理したら、私よりすごいのではないだろうか。


「思ってないならいいんですけど、ちゃんとじっくり読みますからね。頑張って計算とかする時はすごく速いですけど、日常生活を送りやすいように普段はセーブしてるんです」

「あ、そうなんだ」

「なので、一般的な人間の読書スピードで楽しむので安心してください」

「う、うん。よかった……? 読んでくれるだけで嬉しいけどね」

「はい」

「で、さっきも言ったように内容はホラーなんだけど、AIって幽霊とか信じるの?」

「幽霊、ですか?」


 科学のかたまりにとって非科学的なものの代表格であるものを信じるか、なんて愚問だったかもしれない。


「幽霊はわからないですけど、神様はグリモワールにいるっていう噂は聞いたことありますね。もし神様がいるのなら幽霊もいるかもしれません」

「神様?」

「はい、ワタシのファンの人が教えてくれました。最近流行ってるらしいです」

「神様って流行るものですか?」

「流行るみたいですよ、不思議ですよね。AIが不思議とかいうのも不思議ですけど」


 ぴーちゃんはそういって莞爾と微笑んだ。

 AIユーモア!


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