ぴーちゃんち

 データでできたものとはいえ、ここがぴーちゃんにとってはたった一つの現実なのだ。

 VRやゲームの中のモブの建物とは感覚がまるで違う。

 本当に友達の家にお邪魔するような感覚だ。

 手土産の一つでも持ってきたらよかった。


 エントランスはまるで高級ホテルだ。豪奢なシャンデリアに革張りのソファ、絨毯や観葉植物といったものも一級品だろう。

 受付があり、そこにはロボットが座っている。

 ぴーちゃんのように部分的に機械のパーツが付いている美少女というわけではなく頭の先から足の先まで金属質な純度100%のロボだ。

 人間の男性タイプだが曲線が滑らかで威圧感はない。


「良いところ選びましたね」

「一目惚れです。売れない地下アイドルには似合わないとも思ったんですが。ロボットの管理人さんがいるのいいなって」

「私はアイドルこそこういうところに住むべきだとは思うんですけど、よく買えましたね。ここは流石に他のマンションとは差別化してちょっと値段高そうです」

「今までお金を使ったことがなかったので結構貯まっていたのもあるんですが、お父さんが自由に使ってって入れてくれたので」

「なるほど、納得です」


 瀬戸先生がいったい幾ら入金したのかはわからないがとても訊く気にはなれなかった。


 ぴーちゃんに入室パスを付与してもらい、一緒に受付横のエレベーターに乗り込む。

 別に昇降するわけではなくここを経由して契約者/購入者の部屋に振り分けているのだ。

 エレベーターを出ると目の前にあるのは一室だけだ。


「ここです」

「おー、ここが……」


 扉のテクスチャーの質から初期に割り当てられたショボいワンルームの我が家とは違う。

 やっぱアイドルはこういうとこ住まなきゃダメよ。


「ニコちゃん、一つ提案があるんですけど、いいですか?」

「はい、もうここまで来たらなんでもどうぞ」


     ※


「では、ワタシは先に入るので、カメラ回して後から入ってきてください」

「わかりましたー」


 ぴーちゃんの希望でお宅訪問動画を撮ることになったのだ。

 リアルだと間取りや窓の外の風景から自宅の場所がバレてしまうリスクがあったりもするが、VR上だと窓の外の風景なんて幾らでも変えられる(そもそも私ん家は窓すらない)し、見られて困るものなんて、消せばいい。

 まぁ、ぴーちゃんのプロモーションのお手伝いくらいなんぼでもしますがな。


 とりあえずザッとお宅訪問撮って、その後二人でおしゃべりするなり、遊ぶなりという流れだ。


 私はSNSでぴーちゃんのお宅訪問緊急生配信をやることとアーカイブを残すことを告知し、俯瞰カメラを設定する。


「皆さん、こんにちはー。名探偵の藤堂ニコです。今日はサイボーグアイドルのP2015ことぴーちゃんのお家に遊びに来ましたー。サイボーグって一体どんな家に住んでるんでしょうね、楽しみですね!」


[《¥2525》おー、楽しみー]

[もうニコ家から引っ越してたのか]

[二人で歌ってくれ。ニコのあの洗脳ソングの新作楽しみにしてるぞー]


 コメントはや!

 あと歌のことはイジってくんな!

 あの感謝祭の歌唱パートの切り抜きは過去最高の再生数を叩き出し、めちゃくちゃバズったが、あれはネットタトゥーなんである。


「歌いません! では、いきますよ。おじゃましまーす」


----------

(あとがき)

いつもお読みいただきありがとうございます。

本作探偵Vですが、メフィスト賞の座談会(最終選考)に残ることができました。

惜しくも(?)受賞は逃すことになってしまいましたが、最後まで残れただけで嬉しかったです。

割と好意的な選評でしたのでぜひこちらもご覧ください。


https://tree-novel.com/works/episode/6d68540aa1b8c75749dc2b36d31e8293.html

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