ぴーちゃんの家

 ぴーちゃんが口にした口座情報は意外なものだった。


 ワクツダイガク センシンジヨウホウギジユツケンキユウシツ


 私が通う大学の研究室名義だ。

 先進情報技術研究……知らん。

 知るわけない。私は文学部だ。

 理系の研究室どころかどんな学部があるのかも知らない。


「とりあえず行ってみましょうか」

「行けるんですか?」

「えぇ、私この大学の学生ですから。普通にキャンパス内入れるんですよ」

「大学生、いいなぁ」


 たしかにAIが学生になるとかはないだろうから、感情があるぴーちゃんは羨ましいのかもしれない。


「VRで大学の講義やったりとかっていうのはあるみたいですけどね。グリモワールにも今度参入する大学あるみたいですよ」

「AIも入学できるでしょうか?」

「想定されてないと思いますけど、いつか大学生になれると信じましょう!」

「はい」


 ちょっと話が逸れたが、うちの大学がぴーちゃんを作って、グリモワール内に放ったのか。

 しかし、何のために?

 ただの実験なのだろうか。彼女の行動をモニターしているのかもしれない。

 正直、ちょっと怒っている。

 彼女には感情があるのだ。何も伝えず、ただ知性と意識だけをこのアバターに入れて放ったらかし。

 それが人間のやることか。

 一回ガツンと言ってやらなければならない。


「ともかく、ぴーちゃんのルーツに関しては私が調べてきますから。心置きなくアイドルに復帰してください。ファンが待ってますよ。特に私がね」

「ありがとうございます。ではまたライブの予定入れておきます」

「とりあえずこれでファンのみんなの不安も払拭されるでしょう」


     ※


 私とぴーちゃんはこの不気味なアバター墓場を出て、カブキシティに戻ってきた。


「ぴーちゃんって家ないんですか?」


 一応、確認しておく。


「はい……お恥ずかしながら、ホームレスです。もともとこの身体にホームがあったのかもしれないんですが住所とかデータがなくて帰れないんです」


 風呂や食事も必要とせず、ログアウトもしないとなるとグリモワール内で家なんてなくてもいいし、恥ずかしがる必要もないのだが。


「別に家はなくてもいいかもしれないですが、ほしいですよね?」

「正直、憧れはあります」


 ぶっちゃけ、グリモワール内で最初に与えられるワンルームの他に家を持とうとするとかなりの金がいる。

 リアルで家は建たないが、車は買えるくらいする。


「貯金で買えないんですか?」

「買い方がよくわからなくて」


 ぴーちゃんは野良AIではなくちゃんと口座情報が紐づいていて、ライブのギャラも振り込まれていたし、私への依頼料も支払えていた。

 買えそうな気がするが……。

 そして高額なためリアル側での本人確認の承認操作が必要であることに思い当たった。


「家の件もリアル側でまとめて解決してきます」

「本当に頼りになりますね、ニコちゃんは」

「名探偵ですからねぇ。とりあえず私の家に出入りできるようコード付与しますから、新しい家が買えるまで自由に使ってください」

「ありがとうございます。嬉しいです」


 なんか推しが自分の部屋使うのって背徳的な気分だ。

 もうずっと住んじゃえばいいのに。と思わないでもないが流石にそれはファンとして一線を越えている。良くない!

 あくまで一時避難に提供するだけ!

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