解決編 ぴーちゃんの正体(前編)

 私は配信を行い、これまでの経緯をざっくりとリスナーに報告することにした。

 隣にはぴーちゃんが座っている。

 彼女が座っているのはついにホームのスタジオに設置されたゲスト用のソファだ。

 たかがデータの椅子なのに信じられないくらいの金額を払うことになった。

 新卒社会人の初任給くらい。

 だが、このソファはぴーちゃんがうちに滞在する時に横になるベッドも兼ねているのであまりショボいものを買うわけにもいかない。


「皆さん、こんばんは。探偵系Vtuberの藤堂ニコです」


[《¥2525》]

[お、調査報告か]

[ぴーちゃん見つかったー?]


「さて、今日はゲストをお招きしています!」


 私はちょっともったいつけて間を置く。

 そして、カメラを引いて私一人のアップから隣にいるぴーちゃんもフレーム内に収める。


「P2015ことぴーちゃんです」

「ミナサン、コンニチハP2015ことぴーちゃんデス!」

「彼女の行方を追っていたんですが、ついに見つけました!」


[《¥2525》]

[《¥25255》資金提供した甲斐があった]

[《¥2525》]

[見つかったんだー]

[《¥2525》]

[よかったー]

[《¥25252》]さすが名探偵!」


「というわけで、経緯を報告していきますね。まずはぴーちゃんの依頼を受けた私はライブ会場に向かったんですが――」


 私はぴーちゃんを発見するまでのなりゆきをリスナーに向けて説明する。

 ライブ会場でフローラから話を聞いたこと。

 スラムに行って、まぁまぁ怖い思いをしたこと。

 なんやかんやポーカーとかしたこと。(ジョーカーのことは言わなかった)

 アバター墓場でぴーちゃんを発見したこと。

 そして……彼女を観察していると、ずっとログアウトしないまま、活動を続けていることに気づいたこと。


[24時間ログアウトせずに活動し続けるってどういうことだ?]

[別にヘッドセット外してたら止まるもんな]


「実はワタシ……AIなんデスヨ」


 ぴーちゃんはもともと隠す気もなかったので、ここで自身がAIであることを公表することにした。


「これがホントのことなんですよね」

「ハイ」


[はぁ⁉]

[《¥10000》ヤバ]

[そんなことあるのか]

[でも警備AIとかショップ店員とかほぼ人間と見分けつかないAIもけっこういるけどな]

[逆にAIっぽ過ぎるキャラだからわからなかったな]


「で、ですね。今回の調査はまだ終わりではありません。ぴーちゃんがどうやらとある大学の研究室が造ったものらしいということを突き止めましたので……近日中に潜入してきたいと思います!」

「ニコちゃん、よろしくお願いしマス」

「はい。というわけで、リスナーの皆さん、次回の放送をどうぞお楽しみに!」


[《¥50000》追加の資金を提供せざるをえない]

[資金提供おじさん、追加投資きた!]

[せざるをえないことないだろ]


「あ、そうだ。資金提供おじさんやいっぱいスパチャしてくれてる方に何かお礼がしたいんですよね。大したことはできないんですけど、なにかリクエストありますか? 好きな歌歌ってほしいとか」


[《¥25000》別に……ただニコちゃんの役に立てればそれで……その……好きな曲歌ってくれるのは嬉しいけど……そこまでしてもらう必要はないというか]

[なに、照れてんだよ]

[カラオケのリクエストするくらいしたらいいじゃん。尋常じゃない金額突っ込んでるぞ、あんた]

[今はスパチャしなくていいだろ!]

[金額考えたら他のファンも嫉妬したり、叩いたりしねーよ。あんた200万どころじゃなくスパチャしてるのわかってるから]

[じゃあ……アクシアの風、逆さまの蝶、only my railgun、甲賀忍法帖とか……]

[おじさんの好きなパチンコ台の曲だろ、それ]


「わかりました。その中から私が歌えそうな曲を今度歌いますね。ちなみに私は歌があまり得意ではないので期待はしないでください」

「ニコちゃんが歌わなかった分はワタシが歌っていいですか? せっかくなので」


[《¥25000》ぴーちゃんまで歌ってくれるなんて……恐れ多い。資金提供してきてよかった。]

[デュエットとかしてー]

[それすごくいい]


「じゃあ、今度フローラ、ぴーちゃん、ミコ、じゅじゅでライブイベントでもやりますか。そこで歌いますね。他にもリクエストある人はコメントで残しておいてください。これまでいっぱいスパチャしてくれた人のはなるべく採用したいと思います。イベントで歌えなかった分は個別で動画上げたりしますか」


[うおー]

[《¥2525》闘いの詩]

[だから、なんでパチンコ名曲縛りなんだよ]

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