最低のギャンブル

「ここかぁ」


 私とマッキーは二人して【グリモワール】最大のカジノ『江戸タワー』の前に立ち竦んでいた。


「ここだけ浮いてるよね」

「浮いてるけど、ここのお客さんってたぶんスラムを経由せずにタクシーとか直行便で来てるからあんまり気にならないのかもね」

「ちょっと怖いけど、さっきの露店通りよりは興味の方が勝つかな」


 今のマッキーは別に足が竦むとかいう感じではない。

 煌びやかなカジノタワーは確かに大人のアミューズメント施設といった感じでワクワク感がないでもない。


「入場料払いたくないなぁ」

「入場料なんてかかるの?」

「かかるのよ」


 例によって私は小説を書くために色々調べているので女子大生にしては余計なことを沢山知っているのだ。


「幾ら?」

「6000円」

「ビミョーな額だね」

「まぁ、さっき買ったVRドラッグムービーの2万に比べればマシか。資金提供おじさんがいっぱい捜査資金くれたし」

「TJさ、ちゃんとファンサしなきゃダメだよ」

「したいけど、何すればいいのよ?」

「おじさんのリクエスト曲一曲歌ってあげるとか」

「いいけど、私歌下手だよ?」

「TJって音痴なんだ。意外」

「いや、音痴ってほどじゃないと思うけど。そもそも最近歌った記憶がない」

「一緒にカラオケ行くか」

「嫌だよ、面倒くさい。さ、行くよ」

「はーい」


 私たちは並んで入場する。

 ゲートを通ると自動的にイカサマ防止のために、アバターに違法なアプリがインストールされていないかのスキャンと入場料が電子クレジットから自動的に引き落とされる。

 リアルのカジノと違って、後ろから他人のカードを覗き見たりとかは物理的にできないようになっているとかカウンティングで必勝できるブラックジャックはそもそもないとか工夫はされているらしいが、ポーカーでのAIを使った確率計算だったりというのはある程度許容している。


「ブラックジャックって必勝法あるの!?」

「あるよ。でもリアルカジノでもバレたら出禁になるけどね。VRだとAIサポートあるからもう全然カジノ側がやるメリットないんだよ」

「じゃあ、なんでリアルではそんなゲームがあるの?」

「中にはお客さん側に有利なゲームも置いておかないとっていうサービス精神みたいだけどね。ブラックジャックの還元率って102%あるらしいよ」

「どういう意味?」

「えーっと、期待値的にね、1万円使ったら10200円返ってくるってこと」

「絶対負けないじゃん」

「そう、そもそも負けにくい上に必勝法のカウンティングやったらそれで生活できちゃう……らしい」

「なるほどねぇ。他のギャンブルは勝てないようになってるんだ?」

「そうね。パチスロが還元率85%、競馬が75%だったかな」

「やればやるほど客側が負けるようになってるんだ」

「ちなみに世の中でもっとも悪どい、還元率最低のギャンブルって何か知ってる?」

「なんだろ……野球? 相撲?」

「違うから! それそもそも違法のやつね! 芸能界出身こわ。周りの人やってたの?」


 私は思ってたのと全然違う答えに驚きおののいた。


 ――マジかよ。どんな常識知らずよ。あと野球賭博とか相撲賭博の還元率なんて知らないよ。正解かもしれないけどさ。


「いや、なんか聞いたことあるなって。違法なんだ?」

「多分、聞いたことあるのは捕まった人とかの犯罪ニュースでだと思うよ」

「じゃあ、正解は?」

「宝くじ」

「嘘ー」

「宝くじの還元率って45%しかないんだよ。人生一発逆転できる桁の当たりは入ってるけどまず当たらないから。宝くじは買わない方がいいかもね」

「ホント色んなこと知ってるね」

「まーね」


 なんて話しながら、私たちは煌びやかなカジノのスロットコーナーを抜け、エスカレーターで上の階へと進む。


「ここはルーレットだね」


 ルーレットを囲むアバターはスーツやドレスを纏っていて、私たちみたいなサブアカでなお女子大生みたいなのはいない。


「何かお探しですか?」


 私たちがキョロキョロしているのを見かねてか、ホールスタッフに声をかけられる。


 ――AIなのか、リアルな人間が操作してるのかわからないな。


「えーっと、ジョーカーっていう人に会いに来たんですけど……どちらで遊んでいるかおわかりですか?」

「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」


 ――待たれていたのか。

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