VRカジノへ

 私たちはタクシーに乗ってカジノへと向かうことに。


「歩いてくの辛い。怖い」


 マッキーが泣き言を言いだしたのだが、私も完全に思いは一緒であった。


「わかるー」

「なんか普通にリアルで歩くのより疲れる」

「私は引きこもりだから同じくらいかな。外歩くのもすぐ疲れちゃうし。まぁそれはともかくそこのタクシー乗っていこうか」

「そうしよ。でも、ぼったくりじゃないよね?」


 スラムで揉まれて完全に疑心暗鬼になっている。


「タクシーはぼったくり無理なのよ。システム的に。マッキーもうビビり過ぎて何もかもを疑ってるじゃん」

「ここ怖すぎるのよ」

「じゃあ、マッキーはログアウトしちゃってもいいよ」

「いや、ついていく。何か面白いことが起こったときにその場にいなかったら後悔するし」

「別に私の視界、モニターに映してそれ見ててくれてもいいけどね」

「せっかくだから視聴者じゃなくて当事者になりたいの。わたしは行くよ」

「まぁ、くれぐれも無理しないでね」


 私たちはタクシー乗り場の一番前で待機している車両に乗り込む。

 さすがに【グリモワール】の運営が走らせているタクシーなのでぼったくりではなかった。

 黒い箱のようなタクシーの座席に座るやいなや私は行き先を告げる。


「江戸タワーカジノまで」

『承知いたしました。料金は前払いとなります』


 私のクレジットから自動的に金額が引き落とされる。

 VR上ではかかった時間ではなく、距離で自動計算された金額らしい。

 それはそうだ。

 タクシーはAIによる自動運転で空中を一直線に目的地に向けて飛んでいくのだから時間なんて関係ない。


 空から見下ろす夢の島スラムは上空からでもよくわからなかった。

 建物が密集しているし、道路もテントで埋め尽くされている。

 これ以上奥に行くと本当に抜け出せなくなっていたかもしれない。


「この中にぴーちゃんが潜伏してるなら見つけるの厳しいね。迷子になったらタクシーを呼んで迎えに来てもらえばいいって思ってたんだけど、この狭い通路だと着陸できない」

「たしかに。わたしはそもそもタクシー呼ぶってことすら思いつかなかったけど、自力でこの迷路抜けるってなると、地図あっても難しそう」

「地図上だとこのへん整理されてることになってるのよ。なんかリリース直後のまだ土地が安かった頃に色んな人が買ってオモシロ半分に増築しまくってめちゃくちゃになったらしいよ。まだルールも整備されてなくて、抜け道が悪用されたとかった話」

「運営がなんとかしてくれたらいいのに」

「お金払って買った人と連絡が取れなくなって権利関係ももう誰もわからないみたい」

「そりゃ、運営もこのあたりは無視するよね」

「そう、だからもうここは放置してフィールドを広げる方向に舵切ったって」

「二度と来たくないね」

「お、マッキー。あれ見て。あれが目的地」

「うわぁ、ド派手。カブキシティが歌舞伎町のサイバーパンク版なら、こっちはラスベガスのサイバーパンク版だね」


 江戸タワーカジノはとてもスラムに隣接した地域にあるとは思えないほど豪奢なタワーで、手間には真上に滝が流れるような噴水にスフィンクスのオブジェが鎮座していた。


「さっさと話だけ聞いて帰ろう」

「帰れるといいんだけどね」


 私はすでにちょっと嫌な予感がしていた。

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