情報屋の居場所

「はぁ。で、その人の居場所がわかる人っていうのはどこにいるんですか?」


 私は熊系アバターの店主に尋ねると、店主は中空に仮想MAPを表示した。


「このエリアは幾つかの島の集合体なんだが、現在地が商業エリア。で、こっちがゲームエリア。残酷描写が規制されてないR18のVR FPSや格闘ゲームなんかだな。かわいいアバターの頭が吹っ飛ばされたり、血塗れになるのが嫌ならやるなよ」

「頼まれてもやりませんよ」


 そういったゲーム内で負ったダメージを現実のもののように錯覚して倒れる人というのが後を絶たない。

 何度も何度も臨死体験をするようなものだ。

 精神的に麻痺していないととてもできない。

 残酷描写なしの全年齢対応のものでもやはり撃たれたりするのは怖い。

 マッキーも隣でプルプル震えながらうなずいている。


「で、ここが風俗エリアだな。客も風俗嬢も中身はおっさんという地獄のエリアだ」

「わからないじゃないですか……」

「いや、それがオーナーやってるやつに聞いたんだが、中身がおっさんの方が客付きがいいらしい。さらにそれで稼いだ金で自分も客として別のVR風俗に行くってんだからもう地獄の堂々巡りだ」


 ――無間地獄!


「え、情報屋さんいるのそこじゃないですよね?」

「安心しろ。ここじゃない。ここまではサービスで教えてやっただけだ」

「そうですか」

「情報屋がいるのはこの島だな」

「そこは何があるんですか?」

「カジノだ」

「カジノですかー」


 私はギャンブルというのをやったことがない。

 小説のネタにある程度仕組みとかは調べたことはあるので知識自体はあるが実際にはカジノもパチンコも雀荘も行ったことがない。


「ここのカジノでポーカーやってるな」

「あんまり良く知らないんですが、VRポーカーって合法なんですか?」

「あぁ、そこのとこはグレーだな」

「グレーとかあるんですか?」

「規制する法律がないからセーフってことになってる。合法じゃないけど捕まえる法律もないからな」

「はぁ」

「ポーカーチップをカウンターで一回トークンに交換してもらうんだ。別になんの使い道もないやつな。で、なぜかカジノの近くにそれを買い取ってくれる店があるからそこで売れば換金できるって仕組みだ」

「あぁ……そうですか……わかりました。そういうもんとして理解しておきます」

「まぁ、ともかくだな。ポーカーテーブルの一番レートが高いテーブルにいる目つきの悪いスーツを着た女が情報屋だ。ジョーカーと名乗ってるが、見た目もトランプのジョーカーみたいだからすぐわかる」

「質問すれば教えてくれるんですか?」

「わからん。その時の気分次第だろうな。変な奴なんだ」


 このスラムでこれだけ普通に会話ができている熊おじさんはマトモな部類のような気がする。

 2万円は高いが、なんだかんだ2万円分のサービスをしようとしてくれているのも感じる。


「わかりました。とりあえず行ってみるしかないですね」

「おう、気をつけろよ。なんか危ないと思ったらすぐにアバター捨ててヘッドセット外せ」

「ありがとうございます。あなた親切な人ですね」

「観光客向けの商売してるからな」


 そして私とマッキーが歩き出したところ――。


「最後にひとついいか?」

「なんですか? もう何も買いませんよ」

「俺の中身、女なんだぜ」


 私はちらっと彼/彼女を見て言った。


「そうなのかもしれませんね」


 本当かもしれないし、嘘かもしれない。

 VRなんてそんなもんだ。


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