信用できない

「人探しか。ここらへんは隠れ場所が多いからな。難しいんじゃないか?」


 実際、露店が並ぶ通りから一歩脇道に入れば迷路のように入り組んだ建造物が立ち並び外に出られなくなってしまいそうだ。

 そこで迷子になってしまって、アバターを捨てるしかなくなるなんてこともありそうだ。


「路地裏とか探せないですもんね」

「あぁ、入らない方がいいぞ。道が完全に頭に入ってても迷うからな」

「じゃあ、どうしたらいいんですかね?」

「そりゃ、タダじゃ教えらんねーな」


 熊みたいな親父がニヤリと笑う。

 歯が牙のように尖っていて、ホンモノの熊のようだ。


 ――こわー。


 マッキーもなんかプルプル震えている。


 ――お前は芸能界でこういうのに揉まれてきたんとちゃうんかい。


「いや、そんなビビらなくてもいいだろ。お前らみたいなのって観光気分でここらへん来ることは来るけどちょっとはしゃいで撮影して帰るだけで、こんなにしゃべったりしねーから距離感難しいな」 

「すみません、私たち真面目っこなもので。じゃあ、あれですか? なんか買ったら教えてもらえる感じですか?」

「あぁ、いいよ。どれ欲しい?」


 私は合法グッズたちを眺める。


 ――どれも欲しくねー。


「どれも欲しくねーって顔すんなよ」

「いや、だって……私、これサブアカですけど、それでもちょっとこのあたりのデータ取り込みたくないですもん。ウィルスとか怖いし」

「ウィルスなんか仕込んでないって。客の信用なくすだろうが。それにこのあたりは動画ファイルだから大丈夫」

「どういう動画ですか?」

「これはギリ合法のAV、こっちはスナッフビデオ」

「スナッフ?」

「知らんか、スナッフ。人を殺害したりする様子を録画したものだな。このあたりはかなり凄い調整で本当に人にナイフを突き立てる感触とか血の臭いを感じるらしい」


 私も怖すぎてマッキーと同様にプルプル震えてしまった。


「それのどこが合法なんですか!」

「超精密なCGだから合法なんだよ。探せばリアルな殺人現場のスナッフVRとかも売ってるだろうけど、それこそ裏路地入ったり、一見さんお断りの相言葉知らないと入れてもらえないような店だろうな。うちは観光客向けだから」

「そうなんですか?」

「そうだよ。ホンモノ売ってる店がこんな表通りに店出すか。ドラッグムービーも実際にトランス状態になっちゃうようなキツいのじゃなくて、ラリったやつが見てる景色を再現した映像くらいのもんだよ。依存性とかないから」


 ――かといってなぁ。どれもいらないのよなぁ。


「うーん、でもそのムービーくらいなら買いましょうか。一番怖くないやつ」

「キレイな模様が見えたり、自分が大きくなったり小さくなったりするやつでいいか?」

「不思議の国のアリスみたいですね」

「お、正解。そんな感じ。ちなみに実際に脳が上手く大きさを処理できなくなるのを不思議の国のアリス症候群って言うんだ」

「へー。でそれ幾らですか?」

「2万ね」

「たっけ」

「高くねぇよ。情報料込みだしこんなもんだろ」


 配信で公開して、払った分を回収してやろうと思いながら、私は電子クレジットで支払いを済ませる。


「で、人探しの件ですが」

「おう、どんな奴でも見つかるぞ」

「情報通なんですか?」

「を、知ってる。ここらへんに潜んでる奴の居場所を把握してる情報屋の情報を教えてやる」

「えー、じゃあそこでもう一回怖い思いして、お金も払わなくちゃいけないじゃないですか!」

「世の中そんなに甘くはないのよ。毎度あり」


 ――このやろー。

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