調査費用は誰が払うのか

「私を探してください……ねぇ。ニコちゃんに探してほしいってことなんだろうけど。ワタシ……ねぇ」

「どういう意味だろうね?」


 私は再びベッドに寝転がってマッキーに尋ねる。


「探してくださいって言ったってさ、ライブ行けばいいじゃんね」

「行けば会えちゃうのが地下アイドルだからね」

「まー、でもそういうことじゃないんだろうね」


 だが、おそらくP2015ことぴーちゃんが言っているのはそういうことではないだろう。

 何か別の意図があるのだ。


「リアル側のぴーちゃんの中の人を探せって意味なのかも」

「いや、いくら名探偵ニコちゃんでもそれは厳しいんじゃない?」

「うーん」


 現状はあまりにも情報が少なすぎる。

 幾ら考えてもそれはただの想像にすぎず、推理にはなりえない。


「とりあえずさ、ライブ行って聞いてみない?」

「それしかないかぁ。でもなー、なんかそれってちょっと気が乗らないんだよなぁ」

「なんで? ライブはニコちゃんじゃなくて眼鏡ちゃんアバターで行ってるから? でも別にニコちゃん宛に依頼が来てるんだから普通に行けばいいんじゃないの?」

「いや、そういうことじゃない」

「じゃあ、どういうこと?」


 そんな深刻な話でもない。


「ライブ会場っていうのは神聖な場なわけ。そこでアイドルとファンという関係性が崩れるような話はしたくないんだよね。イチオタクとしては」


 P2015のライブの世界観を崩したくないわけ。イチオタクとしては。


「それはさぁ、別にいいんじゃない? そもそも依頼してきたのは向こうだし、現場で話聞いてほしいから依頼文が曖昧だったわけでしょ」

「確かに。マッキー鋭いな」

「それにさー、会場で聞き取りするのがファンとして耐えられないっていうならお金が払えばいいじゃん。どうせチェキ撮ったりお話しする時間は有料なんだからぴーちゃんが得するだけじゃない?」

「あぁ、そうか。チェキ代を払って話をするならいいのか。いや、ライブ会場でチェキ代も払わずに捜査の話をするのはちょっとって思ったけど、それは妥協案として受け入れられる……かなぁ」

「受け入れるのもどうかと思うけどねぇ。向こうの依頼に対してなんでこっちがお金払うのよっていう話ではあるからね」

「でもマッキーも推しに金突っ込むタイプじゃん」

「まぁね。でも推しにお金を払えるならどんな形でも百パー嬉しいわけじゃないけどねぇ」

「今回はかなりムズイね。嬉しいかもしれないけど複雑すぎる」


 そう言ってマッキーは笑った。


「私のお金が活動費の足しになるのは嬉しいけど、別になんの意味もなくただただ払いたいわけじゃないから」

「確かにね。でも今回は名探偵である私の能力を評価してくれた代っていうことにする」

「そういうことにしとくかぁ」


 そうと決まれば善は急げである。


「ライブ会場行って、特典会でチェキ代払って聞き取り調査をする!」

「なんだかなぁ。でもさ、TJ」

「なんだい、マッキー?」

「ライブ行く前にDMに返信してみれば?」


 ――それだわ。私としたことが迂闊だったわ。

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