ぴーちゃん

「依頼だ……」

「誰から?」

「ぴーちゃん」

「え? TJが愛するあのロボットアイドル?」

「サイボーグね」


 私はちゃんと訂正する。


「一緒じゃないの?」

「全然違うよ。ロボットは一から十まで全部機械だけど、サイボーグっていうのは人体の一部を人工物に置き換えたものだから。サイバネティクスオーガニズムが正式名称ね、ちなみに」

「TJはホントに変なことよく知ってるよねぇ」

「SF小説書こうと思って勉強したからね」

「SFも書こうとしてたんだ。ミステリー以外興味ないのかと思ってた」

「いやいや、私はSFも好きなのよ。でも難しいんだよねぇ、SFって。なんかさー、ちょっとやそっと勉強したくらいじゃ新しいもの書けなくって。自分で書くのは挫折しちゃった」


 かつてSFの新人賞にも応募したことがあるのだが、選評では作品の質自体は評価するがSF的目新しさがないとかガジェットが弱いとか言われたものである。最終選考に辿り着けたこともない。

 小説としてはけっこう面白く書けたと思っていたし、そこそこ自信もあったのだが、どこまでいっても文系脳の私には選考委員を納得させるガジェットを思いつくのは厳しいと判断し、それ以降SF小説は書いていない。

 好きではあっても得意分野ではなかったようだ。


「TJでも挫折することなんてあるんだね」

「あるでしょ。コンカフェで働くのも断念したんだから」

「本気で働きたかったの? 潜入取材で渋々行っただけじゃなくて?」

「いや、それがさ、私意外とコスプレとか好きなんだよね。だから向いてるなら働くのも有りだと思ったよ。ま、SF小説よりも全然向いてなかったわ」

「ま、接客とセットだから難しかったんだろうけどさ、趣味で衣装は買って写真撮影すればいいし、SF小説だって賞は獲れなかったかもしれないけど趣味で書いたらいいじゃない。同人誌にするとか投稿サイトで公開するとかさ。別にプロになってお金稼ぐことだけがすべてじゃないっしょ」

「おぉ、なんかマッキーが良いこと言ってる」

「ふふん」


 たしかに私はなんでもプロとしてやることにこだわり過ぎていたかもしれない。

 好きなことは好きなようにやればいいのだ。


「ってか、なんの話だっけ?」

「あぁ、だからぴーちゃんから依頼が来たんだって」

「へー、なんて書いてあるの?」


 私はぴーちゃんから来たDMを展開する。


「ん?」

「どうしたの、怪訝な顔して」

「いや……なんかよくわかんないことが書いてある。ほら、これ見て」


 私はマッキーの隣に座って、タブレット端末を差しだす。


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