VRカフェ
「アイドルのライブってVRのなんだ」
「リアルもいいけど。今日はVR空間でわたしの推しがライブするのよ。一緒に観ようよ」
「ま、別にいいか」
「TJってアイドルのライブって観たことある? なさそう」
「私が答える前に『なさそう』とか言うなよ。あるよ、実は。ただ、行ったことはあるけど、ライブ自体は観てない」
「どういうことよ」
「まー、色々あったのよ……ライブ会場まで行ったことあるんだけど、始まる前に用事が出きちゃって帰った」
そう、私は呪井じゅじゅのワンマンライブに行ったことがある。
ただ一曲目のイントロで外に出ただけだ。
「それは行ったことないってことじゃん! わたしの言ったとおりじゃない」
マッキーが私の頭を軽くはたいて笑う。
「言ったとおりと言えば言ったとおりなんだけどね」
「いいから入ろうよ」
VRカフェは駅前の雑居ビルの2階と3階に入っているテナントだ。
「私、VRカフェってはじめてだ」
「そうなんだ、意外」
そう、私は自宅にそこそこのVR環境が揃っているのでわざわざVRカフェに来なくてもいいのだ。
「TJってV好きなのに。VRで観ないの? 普通にタブレットとかで観てるってこと?」
「まぁ……そうね」
「なによ、その歯切れの悪さ」
「タブレットじゃなくてパソコンね」
「そういうことか。ちゃんとパソコン持ってるんだ。それは意外じゃないわ。なんかパソコン似合う」
「似合うとかないでしょ、そんなものに」
なんとなく学生なのに自分で配信できるだけの環境を自宅に作っていると言うことに若干の抵抗があった。
「受付2階だよ」
私たちはエレベーターの扉が開くとすぐ目の前が受付カウンターだった。
「わたしは会員証持ってるけど、TJは作らなきゃだね」
「あー、会員証とかいるんだ。免許とか身分証持ってないんだけど大丈夫かな」
「学生証でいけるから」
「そうなんだ。じゃ、大丈夫か」
受付ではスマホに会員証アプリをインストールさせられ、学生証を提示すると会員証として使用できるように機能が解放されるという仕組みだった。
思ったよりもあっさりと会員登録ができたことに拍子抜けする。
今後は受付を経由せずにゲートの読み込み口にアプリのバーコードをかざすだけで利用できるという。
カード引き落としにもできるし、帰宅時の現金払いもできる。
私はとりあえず現金払いにしておいた。財布にはそこそこ現金が入っている。
「会員登録できた?」
「できたよ。友達と来てるから使い方はそっちに訊くって言っといた」
「おっけー。じゃあ、常連のわたしが色々教えてあげるからついてきなよ」
「はいはい。急に先輩風吹かせてきたな」
私たちはゲートにスマホをかざして中に入っていく。
スマホには自分に割り当てられたブース番号と利用時間を示すカウンターが表示された。
結局はVR空間に行くという自宅と大してやってることは変わらないのだが、友達と一緒に外でというだけでやはり新鮮な気持ちだ。
私は浮足立つ気持ちを抑えんと背筋を伸ばし、同期の後ろをついていく。
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