目的地は――
私とマッキーはアイドルのライブに急遽行くことになった。
キャンパスを出て、彼女に連れられ駅へと向かう。
今日は彼女が推しているグループのライブがあるとかでそれを観に行くらしい。
Vtuberと同じようにまだ人気が出ていない地下アイドルを青田買いして、古参面するのに快感を覚えるという。
「そこはブレないんだ」
「やっぱり人気出てくるとさー、無意識かもしれないけどトガったところがなくなってくるというか大衆に受け入れられるようなスタイルになっていくじゃない?」
「じゃない? って言われても知らんけど」
「そうなのよ。ミュージシャンが変な実験的な曲作らなくなって、誰が聴いてもいいって感じる曲になっていくみたいな感じ」
「わかるようなわからんような」
「小説とかもそうなんだけど、デビュー作が一番いいとかってあるんだよねー」
「ホントにマイナー趣味なんだね、マッキーって」
彼女は歩きながら逡巡している。
「マイナーっていうのともちょっと違う気はするんだけどね。そんなにサブカルめいたものが好きっていうわけでもないし」
「本質的には多趣味っていうより、まだ世間に見つかってない才能の煌めきを見つけ出すことが趣味なのかもね」
「それだ。TJは表現が詩的ですばらしいね。今度からそう言おう」
――ちょっといい感じに言ってしまったな。まぁ、本人が喜んでるからいいか。
「自分で考えたことにしていいよ。恥ずかしくてそんなの自分で言えないと思うけど」
「言える言える。わたし、何言ってもサマになるから」
「美人やべーな」
自覚がある美人というのは清々しいものがある。こういう顔の美人はもっと美貌を鼻にかけて下々を見下すような態度をとるものだと思っていたが違った。どうやら面白不愉快な存在であるらしい。
ウザいが一緒にいて苦ではない。そんな感じだ。
「TJは物事の本質を見抜く目を持っているのかもしれないよね。作家とか向いてそう」
「あー、それ私も思うー」
「どういうリアクションよそれ」
「小説は書きたいなって思ってるのよ、実際。マッキーも意外と鋭いとこあるんじゃないの」
「へへへ」
実際にもう作家としてデビューもしているし、売れずに廃業しかかっているところまできているのだが。
――しかし私の発言からそこまで見抜くとは。ただのオトボケ美人ではないな。
「そういえば、藤堂ニコの小説読んだよ」
「あー、どうだった?」
私は努めて冷静に振る舞う。
しかし、友だちが自分の著作をどう読んだのか直接聞くというはじめてのことに動悸のリズムが狂っていくのを感じる。
――心臓止まるわ。
「面白かったんだよねー。TJの推しだけあるわ」
「あー、それはよかった」
「藤堂ニコってVtuberじゃなくて小説家としても才能あるんだね」
「だよねぇ」
――だよねぇ。藤堂ニコって才能溢れちゃってるから、なんでもできちゃうんだよねぇ。
「TJはホントにニコちゃん好きだよね」
「いや……別にそうでもないんだけどね」
「なんでそこ頑なに認めないのよ。完全に風貌から意識してるし、生協でニコちゃんの本すでに持ってるのに、手に取ってたじゃん」
「あれは大学生協が藤堂ニコの本なんて置くんだなーと思っただけだから」
「素直じゃないなぁ」
「いや、マジでマジで。ちょい推しくらいだから」
焦って否定すればするほど変な感じになるが、こればっかりは自分で自分のことを『大好き』なんて言えるわけもないので仕方ない。
「まぁ、いいや。これはいつか認めさせるとして。ミステリーってあんまり普段読まないんだけど、面白かったしビックリもしたんだけど売れてないんだ? 作家としてのニコちゃんって」
「別にVtuberとしても売れてないけど、作家としてはV以上に全然みたいだよ。次も売れなかったらもう本出せなくなるみたいなこと雑談配信で言ってた」
――言ってたのは私だけどな。
「そうなんだ」
「紙の本を趣味で読む人って少ないからね」
「あー、そうかもね。わたしたちみたいな文化系大学生はけっこう読む方だと思うけど世間一般はそんなに読まないんだ」
「みたいよ。最近の中高生とか家に本棚なかったりするらしいからね」
「へー、そうなんだ。だとしてももっと売れてもいいのにね。せっかく面白いんだから。Vとしては最近名前売れてきたし、もうちょっと続けてればいつか人気作家になるでしょ」
「だといいよね」
――やっぱいい奴だなぁ、こいつ。
そんな話をしていると目的地に着いたらしい。
「着いたよ」
「駅向かってたから電車乗るのかと思った……ってここ?」
「ここ」
「ライブハウスじゃないじゃん」
そこはVRカフェのテナントが入っている雑居ビルだった――。
――アイドルのライブってVRのかよ……。
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