二人でのVR

 VRカフェは全体的に薄暗くお洒落な雰囲気だ。

 ちょっと宇宙船チックな内装でアミューズメントパーク的な高揚感もある。

 非現実的な体験を提供しようという店側の意図が垣間見える。


「ブースってカプセルなんだね」


 私は各所に設置されているカプセルタイプのVR体験ブースを眺めながら言う。


「もっと広い個室タイプもあるよ。閉所恐怖症の人とか身体が大きい人も使うから。あとVR格闘ゲームとかは全身使うから専用ブースもあるね」

「なるほどねぇ」

「わざわざアプリで選択しなきゃ自動的にカプセルタイプだし、わたし達みたいな貧乏学生はカプセル一択だよね」

「マッキーって貧乏なの? お金持ってそうだけど。いっつも良い服着てるし」


 彼女がギクリと唾を飲み込むのがわかった。


 ――さてはこいつ金あるな。


「え? それは綺麗なお金? 血のつながっていないパパ的な存在からいただいているやつ?」

「違うよ。モデルとかやってるからそのギャラ。嫌味っぽいし、普段はあんまりお金あるような感じは出さないように気をつけてんの」

「現実でも美人な人は違うねぇ。でも、高い服とそれに合わせた高級ブランドのバッグ持ってて貧乏キャラは無理があると思うけどねぇ」

「あー、わかっちゃう? でもあんまり派手な格好はしてないと思うんだけど」

「まぁ、ちゃんと学生っぽいっちゃ学生っぽいけどね。でも靴とカバンは地味といってもモノが良すぎるよね。私みたいな洞察力抜群の人間を騙し切るのはちょっと無理よね」

「そっかぁ。うわー、サークルとかで誰にもそんなの言われたことないけど気づいてる子は気づいてるのかなぁ」

「と思うけどね。なんとも」

「気をつけよー。そっかぁ、カバンと靴ねぇ。確かにねぇ」

「別にわざわざ貧乏アピールしなきゃ嫌味じゃないよ。ちゃんと自分で稼いだお金で買ってるんなら誰かに文句言われる筋合いないでしょ。なんか本当はお金持ってるのに無理に下々に合わせて地味な格好して、貧乏キャラやってますって方が感じ悪いかな。バレた場合にはね」

「言われてみればそうだわ。TJはさ、やっぱ賢いというか異常に鋭いよね。言うことの一つ一つがタメになるというか良い意味で刺さるわ」

「ミステリ小説好きだからね。ちなみに私はマッキーのこと良いもん着てんなーとは思ってたけど、別にそれで嫌味だとは感じないし、嫉妬もしないよ。服が好きなのかなぁとかは思うけど」

「それなら良かった。さ、じゃあ、VRやろ」


 私は自分のスマホに表示された『012』のカプセルブースに入る。

 卵型のカプセル内は長時間座っても身体に負担がかかりにくい柔らかく包み込まれるような素材のリクライニングチェアと荷物入れ、あとはVRヘッドセット、キーボードとコントローラー(リモコンタイプとグローブタイプ)が載っているサイドテーブルしかない。あと足下には移動操作にも使えるフットペダルが設置されている。

 このカプセルは防音性が高く、さらにヘッドセットのスピーカーとは別に環境音を出すことでより没入感を高める効果がある。設定すればVR内の環境にあわせた温度変化なんかも再現してくれる。

 さすがに溶岩に落ちたからといって即死するような熱風が噴き出すとかではないけども。

 こういった設備については知識としてはあってもいざ実際に体験するとなると想像とは違うところが多々見つかる。


 ――百聞は一見にしかず。ってやつだね。座り心地いいなぁ。この椅子買えないか後で調べてみよ。


「TJ初めてなんでしょ? 大丈夫そう?」

「まぁ、多分。調べたことはあるからね。でもログインしたらどうなるの?」


 私は藤堂ニコのアカウントを使うわけにはいかない。


「ログインしたら、何種類か汎用デザインのアバター用意してくれてるからそれ選べば大丈夫。グリモワールでお金使ったらさっき入れたアプリ経由で記録されて、帰る時に支払いって感じ」

「まんまこの感じでVR空間に出るの?」

「このまんま。あっちでもこの店のカプセルの中」

「なるほどねぇ」

「私はもうVRカフェ用のアカウント作ってあるから。あっちでTJのカプセルの前で待ってるね」

「りょうかい」

「じゃあ、また後で」

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