いざ対決へ――。
私の配信は瞬く間にVR空間、現実世界のSNSで広まった。
イタい新人Vが売名のために有名Vに喧嘩を売った、という話として。
私が千里眼オロチのファンであればもちろんそう思っただろうし、ファンでなくてもそう思っただろう。
見た目だけは有名イラストレーターにデザインしてもらった美少女名探偵風だが、現状は謎の洞察眼で人狼が上手いだけの女子大生が趣味でやってるVである。
そんなモノが有名人をインチキ呼ばわりである。
当然ぶっ叩かれる。
しかし、私はそれを無視し続けた。
そして――私の罠に引っかかった者がいる。
――これを待っていた。
――――――――――――――
千里眼オロチと申します。
突然のDM失礼いたします。わたくしの未来予知がインチキだとおっしゃっている動画拝見しました。
ぜひその根拠をおうかがいしたいので、ぜひ生配信でその種明かしをしていただけないでしょうか? 証拠など出せないと思いますが。
もし売名のためにうっかり口を滑らせてしまっただけということであれば、訴訟などは考えていませんので生配信の場で謝罪をお願いします。
藤堂様がこの申し出を受けずに逃げ出すようであれば、このDMは公開させていただきます。
――――――――――――――
私は安楽椅子――現実の座椅子――でほくそ笑んだ。
彼女だけは私の発言を無視することができなかったのだ。
「化けの皮を剥がしてあげましょう。Vだけに」
私はすぐさま彼女の今晩の生配信枠にゲストとして伺いたいというメッセージを送り、承諾された。
ここで私の追及を逃げ切れば彼女の格は上がる。
絶対に証拠は出せないと踏んでいるのだろう。
実際に証拠なんて手元にはない。
だが……大勢の観客がいる生配信であれば、私に勝機はある。
私は彼女がVR空間グリモワール上で借りているスタジオへと向かった。
※
私はスタジオの前に立って唖然とした。
ベイサイドエリアに立っている配信スタジオはまるで湾岸のテレビ局のようであり、一回の配信で私の年収分ほどの金額がかかるという。
今日という日のためにわざわざ高級なスタジオをレンタルしているわけではなく、いつもここを使っているとのことだった。
スタジオ自体の高級感――かなり自由度が高くエディットできる――だけでなく、カメラの台数、スタッフの編集技術も一流でアフターサービスも抜群だという。
なにからなにまで自分でやっている貧乏女子大生には一生縁がないと思っていた。
「藤堂ニコ様ですね。いらっしゃいませ」
エントランスで私に話しかけてきたAIの精度もまるで人間そのものだ。
グリモワール上のアバターは私のような2D風から現実の人間をトレースしたものまでさまざまだが、ここのスタッフアバターはすべて現実の人間に似せたものになっているらしい。
「えーっと、千里眼オロチさんの番組ゲストで呼ばれてきているんですが」
「はい、存じ上げております。59階Aスタジオへどうぞ」
「そういえば、私もカメラは回してていいんですか?」
「はい、結構でございます」
――いいんだ。セキュリティ的なものはどうなってるんだろ。
私は自身の俯瞰カメラと視界カメラをオンにして、スタジオへと向かった。
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