千里眼オロチの弟子
私はひとまず千里眼オロチの情報を集めることにした。
配信終了後もVRヘッドセットを外さずに情報収集を続けることに。
SNSから拾った情報によるともともとはごく少数のファンたちを無料で占ったり、占いについてのトークをしたりする個人勢Vtuebrだったという。
企業が運営していないため、特に配信ノルマもなく好きなことだけを話し、コラボを大規模にやるようなこともなく牧歌的な雰囲気だったという。
ところが彼女に未来予知の能力があることが判明し、SNSでバズってからというものその占いが当たると評判になり、今では個人勢としてはトップクラスの人気と注目度を誇る。
一方で占いの希少価値を高めるために、一般人を占うことはせず超高額のメンバーシップ会員――政治家や有名芸能人も加入している――だけを占うようになってしまったため古参ファンは距離を置いてしまっているらしい。
「なるほどねぇ」
私はあまり占いを信じる性質ではないが好きな人がいるというのは理解できる。
占いに自分の選択を依存するようなことはないが、新人賞の最終選考に残った時は近所の神社におみくじを引きに行ったものだ。
もはやできることなどない中で少しでも自分を落ち着かせたかった。
だが、おみくじは『吉』『願いごと――叶うかもしれないし、叶わないかもしれない』だった。
――世の中、だいたいのことはそうでしょうよ! せめてどっち寄りか書けよ! 気休めにもならないじゃない!
と激怒したものだが、結果的には特別賞を受賞してデビューはできた。
が、全然売れずにミステリ作家としては最悪の出だしであった。
夢が叶ったともいえるし、叶わなかったともいえる。
さておき、私はネットサーフィンのみでの聞き込みに限界を感じ、外に出ることにした。
外といってもVR空間『グリモワール』内での外だ。
外はとにかく広告が溢れていて、情報の波が押し寄せてくる。その大半はVRドラッグやらいかがわしいものだ。まだ法整備が整っていないが近々規制されるらしいとは聞いている。
そこら辺の人たちに適当に声をかけて話を聞けばいいような気もするが、賑やかしのNPCなのか実際にアバターの向こう側に人間がいるのか見分けがつかない。
で、あれば千里眼オロチのことが好きそうな人たちがいそうなところへ行けばいい。
※
私は千里眼オロチの弟子が経営しているという占い屋を訪れることにした。
オロチが認めた上に超超超高額のライセンス料を支払うことで弟子を名乗れるということまでは調べがついていた。
――金を払えば弟子を名乗れるシステムってどうなんでしょ。
『千里眼オロチ公認! 占いの館』
――おぉ、千里眼オロチ公認のフォントサイズでかいー。
ともかく中に入ってみる。内装はいかにもといった感じで薄暗い受付の奥が個別ブースになっているようだった。そして意外と占い料はリーズナブルだった。
――私でもなんとか払えそう。
私は占い師の指名フリーでシンプルな生年月日占いを頼むことにした。
出てきたのは千里眼オロチ(ジェネリック)って感じのアラビア風女性占い師。
「いらっしゃい。本日あなたを占わせていただく千里眼マムシです」
「お弟子さんだからそう名乗ってらっしゃるんですね」
「はい、公認を受けて改名しました。現実世界でも占いをやっているのでそちらもよろしくお願いします」
どうやらリアルでも占い師らしい。
「実は占いをしてほしいというかオロチさんのお話を聞きたくてうかがったんですよ、私」
「あら、あなたもオロチ先生のファンなんですね。嬉しいです。どんなことを知りたいんですか?」
マムシ嬢はすっかり私のことを師匠のファンだと勘違いしているようだった。
「オロチさんって未来予知ができるとうかがったですが、本当に未来予知ができるんですか?」
「えぇ、私はあまり古参というわけではないのですが証拠が残ってるのでそれははっきりと確認しています」
「証拠? 未来を予知している証拠があるんですか?」
「はい、オープンになっているものもありますよ」
そういって彼女は空中で指先を動かし、キーボードを呼び出すと幾つかの画面を呼び出した。
「SNS上で災害や感染症の蔓延を予知した書き込みがこれです。あと動画でも残ってるんですよ」
それはオロチの未来予知と題された動画で、たしかに彼女の自身の口から、「近い未来――人類全体に大きな災厄が降りかかります……それは病……しかし、人類が団結して力をあわせればきっと乗り越えることができるでしょう」とはっきり言っている。
「これは映像を加工したものではないということですよね?」
「はい、ちゃんとこの動画の公開日より前に収録されたものと鑑定結果も出ています」
映像加工ではない。
さらにSNSでの投稿の日付も感染症の蔓延よりもかなり前だ。
「すごいんですね、オロチさんって」
「師匠はすごいのです。私も早く師匠のようになりたいです。さて、藤堂ニコさん、あなたの運勢ですが――」
私は自分の占い結果のデータをもらうとそそくさと店を後にした。
※
そして、その日の晩――。
彼女のSNSの過去ログ、そして未来予知動画のコメントを見ていて私は一つの仮説に辿り着いた。
「皆さん、こんばんは。探偵Vtuberの藤堂ニコです。今日は千里眼オロチさん公認の占いの館に行ってきましたー」
[おー]
[〈¥250〉ニコちゃん、俺との結婚運を占ってきたの?]
[誰だおまえ]
[〈¥2525〉]
[こないだの姉が心酔してるって人のための調査だろ]
「で、行ってみて思ったんですが……千里眼オロチさんはインチキですね。私がその化けの皮を剥がしたいと思います!」
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