58. 黄金の惑星

「きゃははは!」


 シアンは嬉しそうに笑うと、空中に黄金色の魔方陣を展開する。魔方陣からはパリパリと金色のスパークが湧き出し、凝縮されたエネルギーのすさまじさが感じられた。


「バカ! ヤメロ――――!」


 百目鬼の叫びが部屋に響き渡った直後、ピッシャーン! と雷が盛大に百目鬼を直撃した。


 ゴフゥ!


 髪の毛がチリチリとなった百目鬼は、口から煙を吐きながらバタリと倒れる。


 シアンはそんな百目鬼の身体を空中にツーっと浮かべると、


「今の話全部ホント?」


 と、好奇心旺盛な目でほっぺたをツンツンしながら聞く。


 百目鬼はうつろな目で朦朧としながら、


「メッセージは……本当……」


 そう言ってガクっと気を失った。


「メッセージ送られちゃう! ど、どうしたらいいのだ?」「いや、参ったな……」「きゃははは!」


 四人は顔を見合わせ、アイディアを募るが、決定的な手段がない。そうこうしているうちにも送られてしまうかもしれないのだ。


 ミリエルは苦虫をかみつぶしたような顔をしてギリッと奥歯を鳴らすと、


「くぅ、仕方ないのだ。交渉しよう」


 と言って、パンパンと百目鬼の頬を叩く。


 だが、反応がない。


「シアンちゃん! やりすぎなのだ! もぅ」


 ミリエルは急いで氷水を生み出して百目鬼に浴びせた。辺りにビシャビシャと水をまき散らしながら、ミリエルは景気よく水をぶっかけていった。


 う、うーん。


 氷水に眉をひそめ、うめく百目鬼。


「おい、起きるのだ!」


 パンパンと百目鬼の頬を張るミリエル。少しかわいそうだったが、多くの地球の命運すらもかかった重大な局面である。玲司はハラハラしながらじっと様子を見ていた。


「う? な、なんだ?」


 意識を取り戻す百目鬼。


「まずメッセージ送信は一旦止めろ。相談するのだ」


 ミリエルは急いで言った。


「メ、メッセージ? 何だっけ?」


 まだ朦朧もうろうとしている百目鬼は要領を得ない。


「金星に送るメッセージなのだ!」


「き、金星? あ、あー、そうだな……。あれ? どうやって止めるんだったかな?」


「貴様! ふざけてる場合か!」


 ミリエルは胸ぐらをつかんで揺らす。


「ぐわぁ! ま、待て! 今思い出すから……、えーと……確か……」


 百目鬼は眉間にしわを寄せて何かを考えていたが、


「あ……」


 と、気になる声を出し、動かなくなった。


「おい、どうしたのだ? まさかもう送ったんじゃなかろうな?」


 百目鬼は目を閉じて何かを必死に考えているようだったが、やがて諦めたように動かなくなった。


 その姿を見て、一行は顔を見合わせる。明らかにヤバい事態だった。


 その直後、ズン! と魔王城が大地震のように大きく揺れ、壊れたTVのように城内のあちこちにブロックノイズが湧いた。


「きゃあ!」「うわぁ!」「きゃははは!」


 人知を超える現象、極めてマズい事態に引き込まれている。玲司はミリエルと目を合わせ、嫌な予感にお互い冷や汗を浮かべる。


 やがて揺れは収まったが、窓の外が真っ暗になっていた。


「こ、これは……?」


 窓へとダッシュして玲司は驚いた。そこは大宇宙であり、眼下には巨大な金色の惑星が広がっていたのだ。まるで金箔を振りまいたようなキラキラとした黄金の惑星。それは教科書で見た、黄色いガスに覆われた金星とは似ても似つかない、まさに金の星だった。


 海王星とはまた違った魅力を持った美しい星に玲司は言葉を失う。


 しかし、これは金星に呼び出されたということであり、これから処分されるという重い意味を持っている。


「あちゃー……」


 ミリエルはその風景を見ると額に手を当てて動かなくなった。


「お、金星だゾ! すごーい!」


 シアンは目をキラキラさせながら金色に弧を描く美しい地平線を眺める。

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