第27話 今、必殺の
「やったか?」
まさか大剣を投げつけてくるとは思っていなかったのか、オーガは防御も回避もしなかった。
滅茶苦茶に回転しながら飛び込んでくるガンバルムンクを、その鉄板のような胸で受け、そのまま薄闇の中に倒れ込むように消えた。
顛末までぼくの位置からは見えないけど、この部屋に雪崩れ込んでくる魔物の動きが一瞬途切れたような気がしたが……。
「どうなった?」
「とるるる~」
歌うようなちゅるるの鳴き声に、ぼくは心の中でガッツポーズした。
ガンバルムンクは遠くに行ってしまったけど、オーガ1匹なら安い犠牲だ。
「とるっ! とるっ!」
「――何? ってなにぃ!!」
余韻に浸る間もなくゴブリンが押し寄せてくる。
ちゅるるの鳴き声はそれを警戒してのものだ、と理解すると同時に。
ま、まずい! 武器、武器を! あわわわわっ! そういえばガンバルムンクを取り出すときに魔法の何でもバックの中身を床にぶちまけていたんだった!
「うほぉ!」
お? なぜか、グルグニールが勝手にぼくの手元にやってきた。
返還機能なんてついてたっけ? ……いや、違う。
ざおーがいつの間にかグルグニールを拾ってぼくに差し出してくれたのだ。
「助かる!」
グルグニールを受け取り、柄を4メートルほどに伸ばすと、長い長い柄のしなりを利用して、べちぃん! べちぃん! と躍りかかってくるゴブリンを叩きのめす。
「とるるるる~」
「――また!」
薄闇に、オーガの顔がぼんやりと浮かび上がる。
距離はまだある。こっちに気づいた様子はない。……よし!
グルグニールの柄を短くして、逆手で持ち直す。
そして――投げる!
数多の魔物の頭上をゆるやかな弧を描いて飛び、オーガの胸板に、――すこぉん!
「とるる~♪」
よし! 上手くいった……けど、また武器が、
「うほ! うほ!」
「気が利くね!」
ざおーから二本のショートソードを受け取り、
「とるるるる~」
チッ! 押し寄せるゴブリンを切り伏せ、オークの喉に貫く。
薄闇の中に、またオーガの醜悪な鬼面を見た。しかも、今度は2匹!
先手必勝! ショートソードを逆手に持ち直し、投げる。
――すこぉん!
1匹のオーガの眉間に命中、切っ先から綺麗に突き刺さった。
隣にしたオーガが「われ、どないしたんじゃ!」とばかりに振り返る。その横顔に、もう一本のショートソードを投げつけ、――ざしゅん! と剣身を深々と食い込ませる。
ややあってから、2匹のオーガは、ずぅしん! と轟音を鳴らして倒れた。
流石のオーガも脳味噌まで筋肉で鎧っていなかったらしい。
しかし、上手く当たったものだ。手傷でも負わせられればいい程度だったのに、
レベルアップの恩恵か、それとも運を使い切って早晩ぼくは死んでしまうのか。
「うほ!」
いや、考えても仕方ない。ざおーから新たらしい武器を受け取る。
今はとにかくこのピンチを残り超えることだけ……って、汚い! どっから拾ってきたんだこの大斧……刃がさびだらけで、赤黒いヌメヌメがくっついてるじゃないか!
オークのかな? オークのだな!
オークの大斧で、オークのどたまをかち割り、飛び掛かってくるゴブリンに投げつけ、目の前に落っこちてきたそいつから大斧を引っこ抜き、また別のゴブリンに投げつける。
むぅ、これは……なかなかの投げ心地だ。
形が投げるのに適しているのか、命中率も悪くない。
「うほうほ!」
ぼくの戦術を理解しているのか、ざおーがまた大斧を差し出してくる。
他に、短斧とか短剣とか棍棒とかがあるのにだ。
「ありがと!」
ありがたく受け取り、数匹のゴブリンの頭をかち割り、四匹目のゴブリンで刃が砕けたそれをオークに投げて返す。それを顔面で受け止めたオークは豚鼻から血を吹き、土下座の姿勢で地面に伏せる。よし、とどめ……は必要なかった。後からきたオーク数匹に踏み潰されてしまったからだ。
「おかわり!」
「うほ!」
うんうん、これだよねぇ……このジャラジャラした感じが……ってこれじゃない!
「これ、ドラバサミじゃん!」
「うほうほうほ!」
ざおーは魔物が押し寄せる薄闇を指差した。
押し寄せる魔物の合間に、何かが煌めく。あれは……ガンバルムンクだ!
「なるほど!」
すかさずガンバルムンクに、ドラバサミを投げつける。
かきぃん! と甲高い音を鳴らしてガンバルムンクの柄に、ドラバサミが食いついた。
『ぎゃぎゃ!』
『ぶひぶひ!』
――ぃやぁ、ばい!
ゴブリンとオークがここぞとばかりにぼくに向かって押し寄せてくる。
が!
「ぬりゃああああぁ!」
でっかい勘違い!
一息にガンバルムンクを引き寄せると、ぼくに向かって押し寄せる魔物の頭上にその大きな影を落とし、何事かと振り返るゴブリンをぐしゃりと押し潰した。
「――ん?」
ドラバサミの鎖を引けば、先端にあるガンバルムンクの重量に何匹かが磨り潰され、鎖をくねくねと操れば、ガンバルムンクが蛇のように踊り、次々と魔物を切り刻んでいく。
「これはいい!」
鎖をぶん回すだけで魔物は真っ二つになっていく……のだ、け、ど……。
「お、重い!」
遠心力を味方に付けたガンバルムンクの重量にぼくの両腕が悲鳴を上げる。
まるで鎖で繋がれたドラゴンが全力で逃げだそうとしているみたい。
全自動魔物刈り機となったガンバルムンクドラバサミ(今考えた)に魔物は逃げることも守ることもできずに真っ二つになっていくけど、鎖が、鎖が手から逃れて、徐々に徐々にその獰猛な顎門を広げていくのだ。――このままでは、やばい!
「ニッケルトンさん! お姉さんズ!」
「どうし――ぬぉあ! 何してんだ、お前は!」
「伏せて~!」
ニッケルトンさんが双子のお姉さんたちの頭を抑えて地面に伏せる。
同時に、ぼくの制御から逃れ、最大まで鎖を伸ばしたガンバルムンクドラバサミ(略してガンバサミ)はぐわんぐわんと風を唸らせながら、一旋、二旋、三旋……、ついにはぼくの手を振り切り、巨大な矢尻となって、――ずどぉぉん! とあさっての壁に突き立った。
「あ、危なかった……」
ほっ、と一安心。
「馬鹿者!」
ごちぃん、とニッケルトンさんに殴られた。
「大技使うときはひと言言ってからにしろ!」
「す、すみません……」
殴られた頭も痛いけど、両腕がじんじんと痺れている。
指先一つ動けそうにない。ん? ちょっと治りつつある? 《蛮勇王の秘訣》のおかげだな、きっと。でなければ、何日は使えなくなっていたかも。
それにしても……やり過ぎた?
魔物を相手にしてこの表現は適切じゃないかもだけど、見渡す限りに輪切りにされた魔物の死体が転がっている。ぼくが担当した左側だけじゃなくて、右側も。
ドラバサミの鎖が最大まで伸ばされたから、きっと巻き込まれたんだ。
動いている魔物は見受けられない。綺麗に全滅……いや、
「ばぁう! ばぁう!」
「とるるる~!」
「うっほ! うっほ!」
君たちに教えて貰わなくたって、人間のぼくでももうわかる。
こんなにも騒がしい足音が近づいてきているのだから。
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