第26話 来襲

 そのとき、どどどどどっ、と室内を激震が襲った。


「な、なんだ?」


「――入り口が!」


 テトラお姉さんの悲鳴のような叫び。同時に、入り口が閉じ、続いて出口も閉じる。


「閉じ込められた!」


 いや、違った。封鎖された出入り口に代わって左右の壁が門扉のように開いたのだ。

 

「い、嫌な予感……」


 だだだだだだだっ、と心臓の高鳴りのような音が響き、だんだんと大きくなってくる。

 ごきゅん、と生唾を飲み、《音当て》を発動。


 ――んごぉ! 


 嫌な予感というものはよく当たるもんだ。


「敵襲です!」


「そりゃそうだろうよ! お前は左側、俺はうしろの右側だ。テトルとテトラは俺とフィルの間で震えてろ!」


 やばいやばいやばいやばいっ! とんでもない大群だ! 

 地面よりも赤いマーカの方が多いくらいだった。

 こんなときはまとめて切り払えるガンバルムンクの出番……なんだけど!


「こんなときに、ちくしょ……出てこない!」


 ガンバルムンクは重いのでただ放り込むと一番下の方に沈んでしまうのだ。

 うっかり! 失念していた!


 とにもかくにも邪魔なモノは全部放り出してガンバルムンクを引きずり出す。

 同時に、襲撃者の顔が室内の灯りに照らし出される。

 ゴブリン、ゴブリン、オーク、ゴブリン、オーク……。

 皆殺しにしているせいでぼくらの情報が伝わっていないのか、その足並みに迷いはない。ぼくらのことを知っていれば多少は恐怖で足が竦んだろうに。


 まあいい、わからせてやるだけだ。

 出会い頭に《鉄槌》を喰らわせてやる。


「フィル、注意すべし」


 ぼくの隣でシルキーが言った。


「……何を?」


「《鉄槌》はあと一回しか使えない」


「は、はぁ?!」


 思わず変な声が出た。


「フィル、集中しろ」


「す、すみません」


 ニッケルトンさんに怒られた。


「一回? 一回だけ?」


「もう四回使ったから……残りの一回は温存推奨」


 な、なんてことだ……必殺の《鉄槌》が使えないなんて!


「来るぞ!」


 ニケルトンさんの叫びを合図としたかのようにゴブリンが飛び掛かってくる。


「こなくそっ!」


 ガンバルムンクを薙ぎ払い、まずは無防備に飛び掛かってくるゴブリン2匹をぶっ飛ばす。続いて、返す大剣で後ろにいたもう1匹のゴブリンを頭から叩き潰し、

 さらに後ろにいたゴブリン1体を切っ先で貫き、団体さんに向けて放り投げる。


 我ながら惚れ惚れするような動きで、あっという間に4体を肉塊に変えてやった。

 けど、ゴブリンが何体犠牲にあろうと、やつらの足が止まることはなかった。

 むしろ、ゴブリンを倒すことでぼくが消耗したとみて、我先にと近づいてくる。


「残念でした!」


 オークの腹を貫き、その巨漢を、……ぐぬぬぬぬっ! 重い! けど、投げる!

 ゴブリンが一度に5匹は巻き添えになり、動かなくなる。

 ……おぅ? 意外に悪くない戦術だ。

 オークの豚頭を飛ばし、ぶくぶくに太った首から下をゴブリンの集団に向けて蹴り飛ばす。

 ごろごろごろごろっ、と転がるオークの首から下。

 巻き添えはご免とばかりに逃げ惑うゴブリンズ。しかし、後続の魔物が壁となって退路を塞ぎ、ぐしゃ! べきっ! ぐちゅ! と次々と血に濡れた肉床へと変わっていく。


「惨たらしい!」


 ぼくの仕業なのに他人事のように言いながら、ひょいと回避、――成功!

 オークの大斧をかわし、そのでっぷりとした腹にガンバルムンクの切っ先を埋める。


『ぶひっ!』


 悲鳴? と前後して、切っ先がオークの腹を貫き、背中から突き出す。

 そのまま、オークの後ろにいた3匹の魔物を貫き、ふんぬ! と気合一発――、

 魔物の群目掛けて3匹を振り払う。

 肉弾となった3匹に小さな魔物は押し潰され、大きな魔物は体勢を崩して倒れ込む。

 もちろん、相手が体勢を立て直すのを待つほど、ぼくは暇でもなければ優しくもない。

 魔物の諸君を見習って躍りかかった。


 まずは目が合ったオークの豚頭をかち割り、別のオークが『ぶひぶひっ!』と避難めいて鳴くのにそいつの頭を薙ぎ払い、息も絶え絶えにオークの腹の下から這い出たゴブリンの、その汗だくの頭に切っ先を落とす。敗残兵狩りよろしくさらに3体のゴブリンを屠り、


「とるるる~」


 不意に、ちゅるるが鳴いた。


「……っ!」


 意味することにぎょっとして顔を上げると、暗がりにオーガの鬼面がうっすらと見えた。

 ――やばいっ! オーガだ!


 今のぼくならオーガと戦っても良い勝負をする自身はあるけど、それはあくまで一対一の状況で戦った場合の話だ。オークやゴブリンなんかに邪魔されたら、きっと勝てない!


「ニッケルトンさん、オーガが!」


「こっちも手一杯だ! てめぇでなんとかしてくれ!」


 ……酷い!

 そっちはテトラお姉さんがいるから遠距離からオーガを一方的に攻撃できるけど、こっちはぼくとシルキーとお供3匹で……数はご立派だけど、あっ、シルキーがいた!


「シルキー! 何か魔法でオーガをやっつけて!」


「無理~」


 這い寄ってくるゴブリンを棒でボコボコにしながらシルキーは即答した。


「頭ぽわぽわで何も思い出せない~」


「ぐっ――」


 このぽん……いや、頭ぽわぽわな人を頼っても仕方がない! かくなる上は――


「どうする?」


「こうする!」


 オーガに向けてガンバルムンクを思いっきりぶん投げてやった!

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