第19話 強襲

一息に駆け込み、ショートソードを上段に構える。

 ぼくの慌ただしい足音に、たむろしている魔物の大半がぼくの方を振り向く。


 片方の手にはフォーク、もう片方の手には得体の知れないモノがもられた大皿。

 長テーブルや椅子があって酒場を兼業している冒険者ギルドを思い出す。

 というか、本当に酒場? いや、食堂か?


 大群が道の真ん中で何をしてるんだろう、と不思議だったけど、……納得。

 大雑把な状況しかわからない《音当て》では知り得なかったけど、

 ここは食堂で、やつらは食事中だったのだ。


 でも、容赦しない。

 ここで容赦したら、大皿の中身はぼくになるかもしれないからだ。


「消し飛べっ!」


 気合一発、ショートソードを振り下ろす。同時に《鉄槌》を開放。

 赤い閃光が大瀑布のように降り注ぎ、ずぅん! とダンジョンを揺るがす。

 数匹が《鉄槌》の直撃に消し飛び、残りは余波で吹き飛んだ。


「今だ! 転がっている奴からとどめを刺せ!」


 もうもうと土煙が立ち込める中、ニッケルトンさんが駆け込み、手近で腹を見せるレッドキャップを踏み潰し、立ち上がろうとした別の1体に短斧を投げつけ、脳天をかち割る。


 ぼくも負けじと転がる魔物にショートソードを突き立てる。


 遅れてお姉さんたちが食堂に入るのが見えた。


 テトルお姉さんが「やっ、やっ」と可愛らしいかけ声を上げながらメイスを奮い、生死不明で地面に転がるレッドキャップを次々と――執拗に、丹念にミンチに変えていく。


 後ろではテトラお姉さんの魔法が炸裂し、立ち上がろうとしたクリムゾンオークの片腕を、片足を、腹のど真ん中を、最後に頭を、炎の飛礫で順々に撃ち抜いていく。


 ふたりの攻撃が、魔物に対する恨み辛みがたっぷり詰まっているように見えたのは、きっとぼくの気のせいではないだろう。


 ぼくらの手が回らず何匹かは体勢を立て直そうとした。


「星の加護、時のゆりかご、今一度抱き留めよ――《グラビティ・ウェーブ》」


 背中に羽を生やしたシルキーが天井近くの安全圏から魔法を放ち、文字通りの重石となって、立ち上がろうとしたゴブリン、オーク、レッドキャプを地面に押しつける。


「フィル~」


 ほいほい。投げつけたショートソードでゴブリンを雑に貫き、放り投げたガンバルムンクでオークをかち割り、投擲したグルグニールでレッドキャップを串刺しにする。

 ……むぅ、当たればいいや的な攻撃が、みんな致命傷になった。

 ああお、そうか! さっき【きようさ】が10ポイント上がったからか?!


「油断するな、フィル!」


 そのつもりはなかったけど、ニッケルトンさんにはそう映ったらしい。

 気を取り直して、取り出した予備のショートソードを油断なく構える。けど。

 ……うん。

 奇襲はおおむね成功で、すでに敗残兵狩りの様相を呈している。

 これで安心して先に――


「ばぁう! ばぁう!」


 なんだ? ゴブリンでもオークでも鳴き声。

 ……なぜか、ぼくに注意を促しているような気がして、


「★×%@*+~!?」


 腰を抜かすようにしゃがみ、がむしゃらにショートソードを突き上げる。

 ぶすっ! とショートソードに鈍い感触が走る。

 目の前には……、

 眉間をショートソードに貫かれ、でろ~ん、と舌を出したレッドキャップの死体。

 あっ、あぶなかった!

 なぞの鳴き声に促され、何気なく天井を見たらレッドキャップが這っていたのだ。

 黒光りする、あの害虫みたいに。

 それで、慌ててショートソードを突き出して……まあこんな感じ。


「フィル、気をつけろ! レッドキャップに隠れられたら、俺らじゃ目の前にいても気がつかないからな! 怪しいと思ったら、とりあえず武器をぶん回しとけ!」


 ありがたいニッケルトンさんのお言葉。


「は、はひ!」


 ……先に言って欲しかったですガ!


「とるるるるる~」


 なんだ? 今度は歌うような鳴き声。鳥?

 ……なぜか、目の前で転がる椅子の丸い座面に注意を促されているような気がして、


「――っ!」


 案の定かい! どうやって隠れていたのかはさておき、丸い座面の裏から二匹のレッドキャップが飛び出し、ぼくを左右から挟撃するように躍りかかってくる! 


「洒落臭い!」


 斬る! そして斬る!

 危なかった……これが奇襲だったらどっちか一匹を斬っている間に、残った一匹に手痛い反撃を受けていたことだろう。出てくるとわかっていれば、まあなんとか。

 ……それにしても、さっきの声は?


「ばるがあああああああ!!」


 なっ、なんだこの声? 魔獣の雄叫び?

 ぐぬっ、足腰から力が抜ける! これは……恐怖?


「ぬぉ!」


 変な声がでた。だって、いきなり物陰からレッドキャプが……ひぃ、ふぅ、みぃ……た、たくさん、1匹いると30匹はいるアレみたいに、わらわらと湧いて出てきたのだ。


「ま、まだこんなに?!」


 でも、なにやら様子がおかしい。

 破れかぶれの特攻のようなのに、ぼくに対する殺意がない。

 顔面に恐怖を張り付かせ、とち狂ったみたいに……って!

 ええい! 悠長に分析している場合じゃない!


「こ、こっち来んな!」


 ショートソードを脇に構え、なぎ払う。同時に――《鉄槌》!

 赤い閃光が横一文字を描き、わらわらと湧いて出たレッドキャップを一閃。

 綺麗に決まって肉片さえ残さずに消し飛ばした。


「なっ、なんだったんだ?」


「無事か、フィル?」


 ニッケルトンさんと、続いて双子のお姉さんが近づいてくる。

 遅れてシルキーが飛んできて、ぼくの背中に着地。


「気をつけろ、まだ奥に大物がいそうだ」


 緊張したニッケルトンさんの声。

 首肯で応え、忍び足で奥に向かう。

 抜き足~、差し足~、


「ばぁう!」

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