第8話 最悪の再会
「ぜぇぜぇぜぇ、……久しぶりに飛んだ。明日はきっと筋肉痛……いや、魔力痛?」
何それ? と問う間もなく、シルキーの羽が無数の光の粒となって消えた。
魔力痛……なるほど、シルキーの羽は魔力でできていたらしい。
「お、お疲れ様」
四つん這いになり、ぜぇぜぇ言っているシルキーをそう労う。
ぼくの気疲れも半端なかったけど、まあこれはこれ。
「ちょっと休んでいこうか?」
「うぃ……」
不意にシルキーの動きが止めた。
「どうしたの?」
げろかな? げろでも吐くのかな?
「なんか、騒がしい?」
「騒がしい?」
地面に掌を当ててみる。……う~ん、なんか揺れている?
「リーン、ってやってみ」
やってみた。
瞬く間に頭の中に地図が出来上がり……
「んんんんっ?」
入り組んだダンジョンの中を赤いマーカーが忙しなく動いていた。それも結構な数が。
「赤いマーカーってどういう意味?」
「敵性存在」
……つまり魔物か。
「言い忘れてた。りーん、ってやると、音に敏感な魔物が寄ってくる」
「そういうのは先に言って欲しかったけど……」
地図を見る限り、ぼくらに寄ってくる赤いマーカーはない。
ほとんどが別の方向に向かっているようだった。
「範囲はどうやって広げるの?」
「よく響く音を出せば良い」
今度は、もっと強く地面を小突いてみた。
りーん、とさっきよりも強く音が響く。
頭の中に表示される地図は、より細かく、より広大なものとなる。
赤いマーカーの大群はこの先にある広間に向かっているようだけど……。
「ねぇ、シルキー」
「うぃ?」
「青いマーカーの意味って何?」
「非敵性存在」
「えーっと……つまり?」
「冒険者」
シルキーの何気ないひと言に、ぼくはぎゃっとさせられた。
赤いマーカーが集まる広場の中心に、ひとつの青いマーカーが明滅していたからだ。
これって……つまり!
「誰かが襲われている!」
走る。走る。また走る。
首に抱きつくシルキーをマントのようにはためかせ、入り組んだ道を全速で駆け抜ける。
目的地まで、あと50メートル。
目の前に小さな背中が近づいてくる。ゴブリンの背中だ。
目的地は、多分……というか、絶対、ぼくと同じところ。
一気に追いつく。そして、ショートソードでその背中を袈裟懸けに、一閃。
訳もわからずに倒れ伏すその矮躯を足場に、ぼくはさらに速度を上げる。
目の前に、また一匹……いや、その先に、我先にと駆けるゴブリンが何匹も連なる。
速度を上げる。
まずは目の前の一匹の後頭部をショートソードの切っ先で貫き、生きているのか死んでいるのかもわからないそいつを投げ捨て、何事かと振り返った奴を真一文字に切り捨てる。
断末魔に何匹かが振り返る。が、そいつらが見ることができたのは、真っ二つになった仲間の死体だけだ。ぼくが蹴り飛ばしたそいつに何匹かが巻き込まれて転がる。
遠慮なく足場にして先に進む。
目的地まで、あと20メートルといったところで、忽然と視界が開けた。
ドーム状に広がるどこかの広場に出たのだ、と理解するが……。
広場の中心にゴブリンが山と集り、その隙間に誰かの白い手足が見え隠れするのに、ぼくの喉は、ごきゅんと鳴った。
「誰かがゴブリンに襲われている!」
追い抜き様に何匹かのゴブリンを切り捨て、広場の中心に急ぐ。
距離は10メートル以上あったが、もう待てない!
ショートソードを脇に構え、今必殺の――
「非推奨。《鉄槌》だと中の人も吹っ飛ぶ」
シルキーに止められ、はっとした。ショートソードを握る手からすっと力が抜ける。
「く、くそっ!」
かくなる上は、1匹ずつ引き剥がすしかない!
10数メートルを駆けるのに要する数秒という時間が酷くもどかしい。
早く! 早く! 早く――
「軛を解き、野に放て――《アンチ・グラビティ》」
「――え?」
その瞬間、ぼくの体から重さというものが消えた。
ただの一歩で、数メートルの距離が一瞬にして過ぎ去る。
シルキーの魔法だ。
「ありがたいっ!」
一瞬にしてゴブリンの山が目の前に迫る。
――1匹2匹なんてちまちま斬ってられない!
魔法の何でもバックを探り、……あった!
取り出したのは2メートルを超える大剣。その名も、
「パメラガジェット18号『超魔力大剣ガンバルムンク』!」
地面を踏み抜くように一歩を踏み出し、右手を思い切りよく薙ぎ払う。
ゴブリンの山の上半分が、ずぱんっ、と二等分された。
返す刃で、下半分も、すぱんっ、と二等分する。
斬撃が、衝撃となってデタラメに二等分されたゴブリンの死体を吹き散らす。
一瞬、その合間に白い肢体が見えた。
ズタボロの白いローブを纏った、淡紅色の、特徴的な髪の――
「……え?」
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