第4話 ステータスの話

「なん?」


「いや、こっちの話。それより助かったよ……何をしたのか知らないけど。君の――」


「シルキー」


「シルキーの魔法か何か?」


「英雄辞典のおかげ」


 たぶたぶのローブをまくり上げ、シルキーがお腹から一冊の本を取り出す。


 シルキーのカボチャパンツと可愛いおへそが見えてちょっと幸せ~、な気分だったのに、その一冊の異様さに、ぼくは幸せな心地と一緒に言葉を失った。


「で、でかい……」


 第一印象がまずそれだ。ちょっとした中盾くらいある。

 防具なら盾、武器として使えばちょっとした鈍器にでもなりそう。


 金細工を惜しげもなく使った装丁は、立派のひと言に尽きる。

 でも、ボロボロだ。切り傷、打ち傷、刺し傷、焦げ痕に、何かで変色した痕などなど。

 もしかして……本当に、盾にした?


「これが英雄辞典。これには古今東西の英雄の《スキル》が載っている」


 シルキーはぺたんっと腰を下ろし、膝の上で英雄辞典の1ページをめくる。

 どれどれ……うん、部屋から零れた灯りだけではよく見えないな。

 鞄からランタンを取り出し、照らしてみた。


 1ページ目には、


 ――――――――――――――――――――――――――――――

 契約者:フィルメル・メイクイーン

 性別 :男

 種族 :人間

 年齢 :14歳

 クラス:村人

 レベル:5→8


【ちから】  :10→12+5

【たいりょく】:8→9

【すばやさ】 :15

【かしこさ】 :9

【きようさ】 :7→8

【まりょく】 :11

【うんめい】 :8→10


【さいだいHP】  :35→40

【さいだいスタミナ】:68→70+10

【さいだいMP】  :50→58


 ――――――――――――――――――――――――――――――



 ……んがっ! なんで1ページ目にぼくのステータスが?!


「ここ、契約者情報」


「あー、うん……そのようだね」


「……村人?」


 聞いて欲しくないことを幼児のような残虐性で聞いてくる。


「クラスチェンジするお金がなくて……」


「ふむ。むむ? レベル上がってる。おめ~♪」


「え? ほんと? ほんとだ!」


 いったい、何ヶ月ぶりのレベルアップだろうか……凄く嬉しい!

 たくさん魔物を倒したからだな、きっと~♪


「あれ? でも、この【ちから】のところの『+5』って?」


「《蛮勇王の剛勇》のパッシブ効果。……次のページへ」


 2ページ目には、


 ――――――――――――――――――――――――

 習得スキル


『フィルメア』

『村人』


 開放英雄


『蛮勇王ギガマラテス』

『?????』

『?????』

『?????』


 ――――――――――――――――――――――――


「この『?????』って?」


「今のフィルが開放できる英雄。条件はさまざま」


 シルキーは無関心にそう言いながら『蛮勇王ギガマラテス』のところをちょんと突いた。

 すると、



 ――――――――――――――――――――――――

『蛮勇王ギガマラテス』


 《蛮勇王の剛勇》★☆☆☆☆

 《蛮勇王の秘訣》★☆☆

 《蛮勇王の鉄槌》★☆☆

 《?????》

 《?????》

 《?????》


 ――――――――――――――――――――――――



 おおっ! 描かれる項目が増えた! 紙の上なのに!


「凄い! どういう仕組み?」


「まず突っ込むのがそこか~」


 ちょっとがっくりしたようなシルキー。


「ご、ごめん……で、これは?」


「フィルが習得したスキル。ここちょんちょんして」


 言われるがままに《蛮勇王の剛勇》のところを指で突いてみた。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 《蛮勇王の剛力》


 説明:

 数多の敵の膝を折り、巨人さえ舌を巻いた蛮勇王の剛力。もっぱら、その力は敵を屠るよりも寵姫を簒奪するためによく役立てられていた。


 効果:現在★

【ちから】にボーナスを得る。

 また男以外を運ぶとき、☆と同じ人数を重量無視で運べるようになる


★1:【ちから】 +5

★2:【ちから】 +10

★3:【ちから】 +15【蛮勇王の剛腕】開放

★4:【ちから】 +25

★5:【ちから】 +40


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 また項目が増えた! これは……スキルの解説っぽい。


「この『☆』って?」


「『星屑ダスト』を振ることでスキルの効果を上げることができる」


「『星屑ダスト』? どうやってもらえるの? 魔物が落とすとか?」


「開放した英雄の眼鏡に適うともらえる」


「ふ~ん……」


「初回特典でみっつ上げよう」


 ほい、とシルキーが差し出したのは星空を星形に切り取ったかのような不思議な物体だ。

 触った感じは石に近いけど、冷たくも暖かくもない。不思議~。


「どうやって使えば良いの?」


「☆に当てはめれば良い」


 ……そういえば同じ形で同じ大きさだな。


「今使っても良いものだろうか?」


 他の英雄が解放されたとき、覚えられるスキルが今のスキルよりも有効だった時用に取っておけば良いんじゃないか、とケチなことを考えたわけだが、


「余裕があるならそうすればいい。余裕があるなら」


 ……なぜ二度言った?!

 いや、わかってる……余裕がないことくらい。レベル【8】だし。


「振ってしまおう」


 さて、どれがいいかな。

 攻撃は最大の防御って言うし、やっぱり攻撃系?

 この《蛮勇王の鉄槌》ってのを、ちょいちょいと。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 《蛮勇王の鉄槌》


 説明:

 蛮勇王の剛力によって放たれる大魔法にも匹敵する一撃。その一撃は空を落とし、地を砕き、海をも割る。故に、蛮勇王の前に幾万幾万の軍勢は意味を成さない。血潮は風に散り、肉片は大地に還る。そして、魂は冥府の門を叩く。待ち受けるのは冥神の嫌味のみ。


 効果:現在★

スタミナをすべて消費して、大魔法にも匹敵する一撃を放つ。


★1:小規模の敵を殲滅する。《蛮勇王の鉄槌》開放、使用回数5/日

★2:戦術規模の敵を殲滅する。《蛮勇王の大槌》開放、使用回数10/3 /日

★3:戦略規模の敵を殲滅する。《蛮勇王の破城槌》開放、使用回数15/7/3/日


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ちょい待ち」


「――ん?」


「《蛮勇王の大槌》と《破城槌》はダンジョンでは使えないから後回し推奨」


「使えないの?」


「使えないこともない。けど、ダンジョンを吹っ飛ばすレベルの威力と攻撃範囲だから、ダンジョン内で使うと、最悪、ダンジョンの崩壊に巻き込まれる危険がある」


「ひぇ!」


 慌てて手を引っ込める! あぶっ、危なかった!


「お勧めは?」


「《蛮勇王の秘訣》」


 指ちょんしてみた。



 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 《蛮勇王の秘訣》


 説明:

 決して褒められた人格ではない。我が儘で、傲慢で、身勝手で……それでも寵姫の誰ひとりとして彼を見放さなかったのは、夜の営みにこそ秘訣があったのだろう。


 効果:

 スタミナが減らなくなる。【さいだいスタミナ】にボーナス。


 ★1:スタミナが減らなくなる。

 ★2:もっとスタミナが減らなくなる。

 ★3:まったくスタミナが減らなくなる。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「これ? 攻撃力を上げた方がよくない?」


「非推奨。ダンジョン内ではいつ休めるかわからない。それに、どんなに攻撃力が高くてもへろへろでは宝の持ち腐れ。ちょっとした不注意で事故にあう可能性も低くない」


「なるほど、『星屑』ふたつ使って……残りの1個は?」


 ページの『☆』のところに『星屑ダスト』を当ててみる。

 ……うお! 『星屑ダスト』が落ちて『☆』が『★』になった。手品みたい!


「無難に《蛮勇王の剛力》でいいかと」


「うん、これはいいスキルだ♪」


 ゴブリンに苦戦していたぼくがこのスキルひとつで圧勝できたからね。

『★』がふたつなら【ちから】+15……オーガにも勝てるかも!


「ちなみに英雄の開放条件を達成すると英雄辞典のページが増える」


 シルキーが英雄辞典の3ページ目をめくると、……こっ、これは!


「ギガマラテス様の人生史?」


「失礼がないように暇なときの読んでおくといい」

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