第3話 英雄、現る
「人?」
ただの、ではない。
巨人族と見間違うほどの立派な体躯に、筋骨隆々の上半身を誇示するかのように腰布だけを巻いた、ぼさぼさの髭と、ぼさぼさの髪の、
『我が名は、蛮勇王ギガマラテス! 三千世界のあまねく女子を抱く者よ! 汝のか弱き女子の盾となろうというその男気、誠にあっぱれ! 故に、我が力の片鱗を授けよう!』
おっさんだ。しかも、半透明で青白い、明らかに生者じゃない感じの。
「だ、誰?」
「ぱんぱかぱ~ん♪ フィルは【条件:命がけで誰かを助ける】を達成しました」
「え? なに?」
「ぱんぱかぱ~ん♪ 『蛮勇王ギガマラテス』が開放されました」
「なんなん?」
「フィルは《蛮勇王の剛勇》《蛮勇王の秘訣》《蛮勇王の鉄槌》を獲得しました~♪」
「シルキーさん??」
「《蛮勇王の剛勇》の獲得によって【ちから】にボーナスがつきました」
「シルキーさん?!」
「《蛮勇王の秘訣》の獲得により【さいだいスタミナ】にボーナスがつきました」
「さ、さっきからなにを??」
「おめでと~、おめでと~」
問いかけるが、シルキーは無感動な声で歌っているばかり。
ならば、と半透明の碧いおっさんに視線で説明を求めるが、
『励めよ、少年っ!』
サムズアップに、暑苦しい笑顔で、おっさんはかき消えた。
「ちょ――」
まったく理解の追いつかない状況に、抗議の声を上げようとした、そのとき。
魔物共の群から、数匹のゴブリンが先駆けるのが見えた。
その数、5匹。……5匹!? ゴブリン1匹にだって苦戦するのに!
「シルキー、下りて!」
「問題ない。やっちゃえ、フィル~」
「も~!」
我ながら牛みたいに唸って一歩を踏み……あ、あれ? 体が凄く軽い!
「ぎゃぎゃ!」
「――っ!」
躍りかかってくるゴブリンの1匹に息を呑み、泡を食って剣を薙ぐ。
「ぎっ?」
「ふぇ?」
ぼくと目が合い、……そのゴブリンの首が、ころんっ、と床に転がった。
「なっ、なにが?!」
首を失ったゴブリンの体が、ぱたんっ、と倒れる。
「た、倒した?」
あまりにあっけなくて確認したかったけど、そんな暇はなかった。
残りのゴブリンが復讐に燃えて襲いかかってきたのだ。
「くっ! せいっ! やぁ! ――とぉ!」
真一文字に1匹、縦一文字に1匹、袈裟懸けに1匹、残りは突きで喉を貫き、
あっという間に凶暴なゴブリンは無害な死体になった。
……やっぱりだ。
ショートソードがいつもより軽い。木の棒を振っているみたい。
さっき【ちから】にボーナスがつく、と言ってたからそのせいかもしれない。
すぐにでも冒険者カードでステータスを確認したいところだけど、
「ぎががが? ぎがるが?」
「ぶひぶひぶひっ!」
「ぎゃぎゃぎゃ、ぎゃぎゃ!」
魔物の団体さんは引いてはくれないようだ。
「どうしよ……」
『我が鉄槌を使え、☆ひとつなら洞窟で使っても問題あるまい?』
ぼくの自問に答えたのは、碧い半透明のおっさん……もとい、ギガマラテス様だ。
言うだけ言うと、ギガマラテス様は碧い炎を散らしてかき消えた。
「鉄槌?」
「《蛮勇王の鉄槌》のこと」と、シルキー。
「どんな技?」
「『すべてのスタミナを消耗して小範囲の敵を殲滅する』『使用回数は一日に五発』」
「凄そうだ」
ごきゅん、と喉が鳴る。
「どうすればいい?」
「使えば良い」
やってみた。
ショートソードを脇で構え、まだ先頭の魔物まで距離があるのに、おもくそ薙ぎ払う。
ただの薙ぎ払いは次の瞬間、赤い閃光となって――
「――は?」
気がつけば……なんでか気絶していたみたいだけど、目の前の壁には大穴が開き、魔物は1匹も残らずいなくなっていた。ただ、青い飛沫と肉片があたりに散乱していた。
これは多分、……いや、魔物の血と肉――あいつらの残骸だ。
「なっ、なにが?」
「《蛮勇王の鉄槌》で入り口近くにいた魔物は全部、吹き飛んだ」
なんか……含みのある言い方。ああ、納得。
入り口に入りきれずに外で待っていた魔物が大穴からこっちを覗き見ている。
「逃がさ……あ、あれ?」
かくぅん、と膝が折れ、ショートソードを杖にして転倒だけは避ける。
なんか……ぐるぐると目が回るんですけど?
「な、なんか……凄く疲れて、……る?」
「《蛮勇王の鉄槌》は一振りですべてのスタミナを消費するから」
「もしかして、だから気絶?」
「そ。でも、大丈夫」
「……え?」
色濃い疲労感にこのまま昏倒したかったけど。
息を吸って吐く間に、体力は元通り、……いや、前よりみなぎってくる。
「どうなってる?」
「《蛮勇王の秘訣》のおかげ」
「効果は?」
「『スタミナの消耗を減らし、スタミナの回復速度を上げる』」
「なるほど!」
すっかり回復した! となれば、やることはひとつ!
「反撃じゃ!」
運良く難を逃れた魔物に襲いかかる。
大穴から外に出ると、また数十匹の魔物が残っていて「あっ、やべ!」と思ったけど、魔物の方も「あっ、やべ!」と思ったのか、一斉に逃げ出し、そして――
「……立場が逆転したな」
崖から闇の底へと、一匹残らず飛び降りていった。
ややあってから、足元から酷い音が木霊す。何かが勢いよく潰れるような音が。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます