第14話 妖の宴

 三人は酒を飲み交わしながら、妖の世界の夜を明かす。

 赤い月の下の静かな湖畔で窈瀼ようじょうが呟いた。


「そういや、華格院四大妖を抜けて大分の期間が経つな」

「そうだな。でもいきなりどうしたんだ? 窈瀼がそんな事を言うなんて珍しいじゃないか」

「無論。我も禳攬じょうらんに同意する。何かあったのか。窈瀼よ」

「ふと彼女の過去を思い出してな。っふ。懐かしい」


 窈瀼が静かに笑う。


「そうだなー。あの頃は四人で色々やったよなー」

「我もはっきりと記憶している。夜に輝く彼女の美しい髪をな。そして、彼女は強かった」

「あー。華格院って美人だったもんなー。まあ、かなに比べたら劣るけどな」


 窈瀼が懐かしそうに呟く。


「江戸の時代に疫病に見せかけ、殺戮を繰り返したのはいい思い出だ」

「無論。それもいいが、平安の世、華格院が我等に加わったばかりの頃が、我にとっては一番の思い出だ」

「何かしたっけ?俺おぼえてねえや」

「貴様は覚えていないか?」


 縻盱罏が禳攬に尋ねる。


「いや、記憶にねえな」

「まあ、しょうがないんじゃないか?平安の世など、今から千年以上も前。覚えていなくとも、不思議ではあるまい」


 窈瀼が禳攬にフォローを入れた。


「窈瀼は分かってくれてんじゃん。そういう事だよ。縻盱罏みくろ。だから、俺が覚えていなくともおかしい事じゃないんだぜ」

「そうか」


 縻盱罏は納得したように静かな笑みを浮かべた後、静かな声でこう言った。


「今となっては全てが懐かしい。あの華格院、禳攬、窈瀼、縻盱罏。この四人が揃っていたころが本当に懐かしい......」

「私も同じ意見だ。縻盱罏よ」

「俺もだぜ。縻盱罏」


 全員が同じ意見だった。


「華格院を殺さねば。我々の計画の妨げとなるあの女を」

「情緒不安定だな。まあ、でもそうか」

「どうやらやるしかないようだな」


 酒の入った盃を打ち交わし、妖の世界の赤い月の下に、彼らは誓った。

 必ず百鬼夜號を遂行すると。

 そして、けじめの為にも三大妖を裏切った華格院を殺し、必ずや血祭にあげると。


 ***


「展開はいくらか上達したか?」

「何が正解か分からないんで、何とも言えないです」

「まあ、最初に比べれば成長したから、少しは自信を持っていいと思うぞ?」

「ありがとうございます」

「さあ、帰るぞ。もう夜も更けてきた」

「了解です」


 そして、いつもの様に新垣は華格院の手を握る。

 だが、家には転移していなかった。


「どうかしたんですか?」

「いや、お前にはまだ話していなかったなと思ってな」


 新垣は疑問の表情を浮かべる。


「私の過去についてだ。あと、私が何故お前を恋愛対象として見るようになったか。『いずれ話す』と言ってまだ話していなかったからな。家で話してやる」


 そんな事を言っていたら、いつの間にかいつもの家に戻っていた。




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