第9話 束の間の休息
新垣は外の明かるさと音で目が覚めた。
「眠い。いま何時?」
そう言って、身体を起こす。
横には、うつ伏せで華格院が死んだように眠っていた。
そして、現在時刻はまさかの昼の12時。
新垣は、これまでにないほど驚いた。
「は、はーーーー!?なんでー!?」
どれだけ寝たんだ!?俺は!マジで何がどうなってああなったらこうなるんだよ!
「うるさい。寝させろ。時間だけおしえろ?」
「12時です。」
「は?」
「テレビつけてみます?はい」
そこから流れてきた音声。それはお昼のニュースを伝える声だった。
「嘘だろ?」
「現実です。目を覚ましてください」
「待て。私はとんでもない真実に気が付いた」
「何かありました?」
「シャワーを浴びていない。」
「1日ぐらい大丈夫では?」
「私だって妖だが、一応女だ。清潔感がないと」
「そうなんですかね?」
あまり納得のいかない新垣だが、二人が12時に目覚めた。というのは紛れもない事実である。
「嘘であって欲しかった」
「入るなら、早くシャワーを浴びてください。今日は自分に付き合って貰います」
「?」
華格院は不思議な顔を浮かべたが、そんな事を気にも留めなかった新垣は華格院を浴室へと押しやった。
30分後
「行きますよー?」
「あ、あぁ」
そう言われて、歩く事30分。
着いたのは駅だった。
「ここから5駅ほど先で降ります」
「聞いてもいいか?」
「はい?」
「なんで急に出かける。百鬼夜號だって近いのに」
「最近、華格院さんが疲れているみたいだったので、たまにはこういうのも良いかなって」
「にしても、大学は?休んだのか?」
「1週間休学にしました。」
「!?」
冷静な顔で新垣は言ったが、華格院は納得がいっていなかった。
夏だったのに、何も夏らしい事をしていない二人である。
新垣は華格院とせめて夏らしいことをしたい。
そう思っている新垣である。
地方の大きな花火大会に行くつもりだけど、やっぱり、華格院さんの浴衣がないと。
「なあ、新垣。お願いがあるんだが」
「はい?何でしょう?」
「その、なんだ。私と付き合う気はないか?」
華格院は顔を赤らめながらそう言った。
「とととと、取り敢えず行きましょうか!」
電車に揺られること約30分。
目的な場所に着く頃には丁度昼時になっていた。
「のどかだな」
「でしょ?この辺りに自分の実家があるんです。」
華格院の目には東京とほど近いとは思えないほどの、のどかな光景が広がっていた。
「昼時ですし、何か食べましょうか。何か食べたい物とかあります?」
「せっかくなら、食べたいものじゃないが、小洒落たカフェとかどうだ?ほら、あそことか」
「あそこですか?確かに良さげですね」
5時間後
昼食も堪能し、地元を観光し、新垣の実家付近を楽しみ尽くした頃。
「華格院さん。最後にちょっとだけ良いですか?」
「どうした?」
「華格院さんに、浴衣を買ってあげたくて」
華格院は驚きの表情を見せた。
「いきなりどうした!?」
「この前のお礼です。」
「丁度、そこに良い感じの和服とかの店があるので」
「お礼されるような事を私はした記憶がないんだが......?」
「細かい事はいいんですよ」
わざとここに誘導したんじゃないかと思うほどに、ベストなタイミングでその店はそこにあったのだ。
「あ、ありがとう?」
店にて。
「お似合いですよぉ!?」
着替えた華格院をみて、店員はこれでもかという程褒めていた。
「彼氏さんもそう思いますよね?」
「「!?」」
「え?そうじゃないんですか?どっからどうみてどう解釈しても、彼氏さんと彼女さんに見えますけど」
「ま、まあ、何と言うか。あと、それ購入させて頂くので」
「かしこまりました〜」
そう言って店員が、電卓と伝票を取ってくる間、二人は動揺を隠し切れていなかった。
そして、会計が終わった時。
「そうだ!今ここでもう一回浴衣に着替えて、このまま、花火大会に行かれてはどうでしょう!」
「え、花火大会あるんですか?」
「えぇ!ありますとも!」
「どうします?華格院さん。」
「せっかくだし、行ってみるか。」
「行かれるんでしたら、屋台の割引券も差し上げますよ?」
「行きましょうか。華格院さん」
新垣がそう言うと、華格院は笑った。
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