第5話 妖刀と解放 二

 新垣が妖力を解放して放った一撃はあまり効果がなく、相手を刺激してしまっただけだった。


「もットキミがホしくナッちャッたァ〜、妖力解放〜」


そう言って化け物が新垣襲おうとした瞬間、華格院が間に割り込み、妖刀で斬り込む。

化け物は避けようとするが、間一髪でよける事が出来ず、諸に胴を斬られた。

だが、華格院容赦無く、化け物の体を突き、流れるように右斜めから斬りかかる。


「ぐっ!」


化け物の傷口からは黒い靄のようなものが絶えず、ジリジリと独特な音を立てて流れ出ている。


「消えろ。下級の三下が」


華格院がドスを効かせた低い声で、睨みつけながらそう言うと、化け物は逃げるように灰になって消えた。

それを見た新垣は、へなへなとその場に座り込む。


「な、何だったんだ?あれ......」

「下級の三下の妖だ。しかし、よりによって新垣に楯突くとは......」


そう華格院は言うが、新垣にしてみればあの告白を断っていなければ、こんな目に遭わずに済んだかもしれないので、若干の後悔の念を抱いていた。


「てか、自分の場所が分かったんですね」

「まあな。お前とは『心ノ契約』を結んでいるからな」

「心ノ契約?」

「夕食中にでも話してやるから、さっさと立て。さっさと帰るぞ。知らない奴らに見られている」

「そうですね。帰りましょうか」


 そう言って立ち上がろうとした瞬間、新垣の担任が生徒と走ってきた。

どうやら助けを呼びに行ってくれていた生徒も居たらしい。


「新垣君!大丈夫かね!?怪我は!?何か得体の知れない化け物に襲われたと聞いが!?もう、私は心配で心配で!何せ女子生徒が化け物になったとこの生徒が言うものだからね!本当に大丈夫なのかね!?」


 担任は一息に捲し立てた。


「大丈夫です。ありがとうございます」

「本当に大丈夫か!?頭は打ってないか!?どこか刺されたとかもしてないか!?それとも、ショックで何も言いたくないのか!?大丈夫だ!私がゆっくり聞いてやる!ハーブティーでも飲みながらな!」

「いや......、あの......、本当に大丈夫なので、そこまで心配して下さらなくて結構ですので......」

「うーむ......。事情は後日聞く事にしよう!今日はもう帰ってゆっくりと休んでくれ!」

「すいません、ありがとうございます」


思いもしなかった事で、担任につかまりかけたが、なんとかそこを脱する事に成功した。

 新垣と華格院は校門を抜け、真っ直ぐにアパートの前に帰った。

初夏だが、新垣のアパートと大学は汗だくになるには十分な距離がある。故に、二人そろって汗だくになっているのだった。


「汗だくなんですけど」

「そうだな。私もだ」

「シャワーどっち先に使います?自分どっちでも良いですよ」


そんな事を言いながら、アパートの階段を上ろうとするが、華格院が新垣の腕をつかんで、それを止めた。


「このまま家に帰るとおもうか?」

「はい?」


 手を握られたと思ったら、いつもの修行場所に移動していた。

 街に比べて、山だから涼しいだから快適!と思いたいところに、蚊が大量に飛んでくる。その状況に新垣は叫ばずにはいられなかった。


「蚊多すぎでしょ!」

「黙れ」


あのドスが聞いた低音で、華格院にそう言われると、何も言えなくなる。その影響かは分からないが、周りを飛び回っていた蚊もどこかに消え去った。


「今から妖刀を作る。黙って見ていろ」

「急に!?」

と言ったはずだが?」


 そう言いながら、華格院は手から妖刀の素体となるであろう刀を出現させる。

どこで仕入れたかは知らないが、そこは気にしない事にする。

 華格院は土の上に指で円陣を書き、その中に新垣には読めない文字を書き入れていく。

平安時代の陰陽師が使っていた紋章に似ていなくもない。

最後に、円陣の中央に狼のような絵を描き、その上に刀を置く。

そして、手を合わせ何かに祈る様な姿勢で何か呪文を唱える。

唱え終わったかと思うと、新垣に刀を差し出しながらこう言った。


「これで腕を切れ。」


あまりに唐突なので、新垣の脳は一瞬機能しなかった。三秒ほど遅れて返事を喉から絞り出す。


「え?」

「血が着いたらそれでいい。何も腕ごと真っ二つにしろと言っているわけじゃない。早くやれ」

「痛くないんですか......」

「切るんだから、痛いに決まっているだろう。何を当たり前の事を言っているんだ」


 新垣はあからさまに嫌という声で抵抗を試みるが、あっけなく突き放された。

そして、新垣が何も話せずに、沈黙していると帰ってきた言葉はこうだった。


「私がやってやろうか?腕は切断する勢いでやるけどな」

「分かりました。やります」

「よろしい」


 切断される勢いでやられるぐらいなら、自分でやったほうが百倍マシだ。

そう思い、腕の皮膚を薄く切る。

 新垣の腕からは血が滴り落ち、妖刀に滴り落ちる。

 すると、血が刀に吸い取られた。


「え?」


 新垣は困惑の表情を浮かべる。


「よし。それでいい。お前の妖刀の完成だ」

「その刀に名前を付けろ。中に狼を付喪神に転生させて付けてある」

「名前ですか?」

「名前だ。別に何でもいい」

「なら、紫・白狼」


新垣はそう呟いた。


「白銀に輝く刀身と反り。まるで走る狼みたいじゃないですか?そして、僕の妖力は紫。だから、紫・白狼です」

「いい名前じゃないか。存分にその刀を振るって妖を殺すと良い」

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