第4話 妖刀と解放 一

「解放を覚えたのなら、次は妖刀と常時解放だな」

「妖刀?常時解放?なんですか?それ」

「妖刀は妖の力が備わった刀だ。私も持っている」


 華格院はそう言うと何の動作も無しに刀を取り出した。鞘には入っておらず、既に抜き身の状態である。

 日本刀特有の反りに加え、白銀に輝くその刀身は美麗だった。


「妖力解放」


 華格院がそう言うと、刀身が紅く輝きだした。


「光るんですね」

「まあな。妖力で刀身を覆うようなイメージだ。この状態なら妖相手でも切れる。そのままの状態だと、唯の刀に過ぎないがな」

「へー」

「そんな事はさておき、お前の妖刀を作る。材料調達の為に一回家に戻るから手を貸せ」


 そう言われた新垣は特に何も思わず華格院の手を握る。一瞬にして住み慣れているアパートに帰ってきていた。


「10分ぐらいで帰ってくる。帰ってこなかったらラインしろ」

「分かりました」

「行ってくる」


 いつのまに新垣とラインを繋いだのか、そこに関しては触れられなかったが、取り敢えずは待つしかないのだろう。と思っていたその矢先、華格院が帰ってきた。


「あれ、凄く早くないですか?」

「よくよく考えたら、早朝すぎてホームセンターが空いてない」


 新垣は時計を見た。そこに示されていたのは、五時。


「というか、流れが自然過ぎて気づきませんでしたけど、妖刀の材料って、ホームセンターで買えるんですか!?」

「まあ、買おうと思えば買えるぞ?」

「そんな曖昧で大丈夫なんですか?」

「要するにお前の妖刀が作れたらいい。文句を言うな。寝る」


 そう言って華格院は強引に会話を終わらせ、ベッドに横になった。するとすぐに寝息が聞こえてくる。

 ストレートな黒髪に朝日が反射されており、新垣の目には華格院が、とても奇麗に見えた。


「華格院さんて綺麗な人だな」


 新垣が何も思わずに発した言葉だが、これが後の二人の関係に大きな影響を及ぼすとは、二人とも知らなかった。


「んー......」


 勘が良いのか、華格院は一瞬目を覚ました。だが、またすぐに眠りに落ちた。

 新垣はスマホを出し、華格院の寝顔をカメラに収めた。



 ***



 大学にて



「フッ!ハッ!ホッ!」


 『筋トレ』部の部室で褐色肌のゴリマッチョがひたすらトレーニングをしていた。


「先輩。お時間よろしいでしょうか」

「ん?おう!新垣じゃぁないかぁ!ハッ!3ヶ月間どぉしていたんだぁ?よいしょぉ!心配したんだぞぉ!?ホッ!ドゥラァッ!」


 時折混じる筋トレの声のせいで半分ほど新垣は内容が分からなかったが、やはりマッチョには通じるものがあるのだろう。ノリと勘で新垣は会話を続行させる事に成功した。


「はい。その節はすみませんでした。急で申し訳ないのですが、部活を辞めようかと思っているんです」


 ゴリマッチョは驚いた顔を見せた。だが、筋トレをしながら驚いた顔をするので、はたから見ればちょっとしたカオスである。


「何故だぁ?共に筋肉を育てよぉと誓ったぁ仲間じゃぁないかぁ?部内で俺様が知らないところで虐められたのか?」

「いえ、そういう訳では......」


 ゴリマッチョは困惑しながらも、納得した表情を見せた。


「ほぉ?まぁいい。まぁ、最近一部の女子生徒に新垣がストーカーされているのも見たことがあるしなぁ?まぁ、戻りたくなればぁ戻ってくるがぁいい。なにしろ、新垣は俺様が認めた仲間だからなぁ!」

「ありがとうございます。本当にすみません。今までお世話になりました。他の先輩たちにもお伝え下さい」

「さらばだ!我が仲間よ!」


 新垣は部室を後にした。脳裏には先ほどの部長の様子がこびりついて離れない。

 小さく思い出し笑いをしていると、急に誰かから話しかけられた。


「にーいがーき君!あたしの事覚えてる?」

「あ、あの時の人ですか?」


 新垣の目の前に、真面目な顔をして、「彼女いるの?」と聞いてきた、女子生徒が立っていた。


「あたし、君にフラれちゃったから〜、」


 と言った瞬間、その女子生徒の姿が、どす黒い化け物の姿に変わる。


「コろシニキチゃッタ」

「ーッ!?」


 新垣は声にならない悲鳴をあげた。


「アタしのイチぶニナッてよ」

「妖力解放!」


 新垣は咄嗟の起点で妖力を解放し、ファイティングポーズをとる。

 そして、新垣は妖力を宿した初めての渾身の一撃を繰り出す。細マッチョの全力のブローが、化け物に撃たれる。だが、それを受けた筈の化け物はダメージを受けた様子は全くなかった。


「嘘だろ!?ゴフッ!」


 新垣が攻撃を受け流すポーズを取る間も無く、容赦ない攻撃が新垣を襲う。

 後ろ向きに飛ばされる新垣だが、妖刀を取り出しながらこちらに向かってくる華格院を、彼はは見逃さなかった。

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