第3話 修行の朝と大学の毎日 二

「おーい!新垣!聞いてるかー?」


 講師の声で我に帰る。


「すいません!」

「ちゃんと聞いとけよー」


 教師の説明を聞き、ノートをとり問題を解く。

 この簡単な一連の作業を毎日こなしているのに、今日はあまり集中していない。

 静かな講堂に教師の声とペンを走らせる音が、静かに反響する。

 チャイムがなり、講義が終わった。講堂を出て、休憩の為にベンチに座る。

 すると、一人の女子大生が話かけてきた。


「ねぇ!にーいがーきくーん!」

「な、何?俺何かしたっけ」

「いやぁー、唐突にきくんだけどぉ、」

「君、彼女とかいるの?」


 ピンクの露出が多い服に、短すぎると言っても過言ではないであろうスカート。髪は留めずにおろしており、いかにもビッチという雰囲気を醸している。


「居ないけど」

「じゃあ、あたしと付き合ってよ!」


 女子生徒は胸を新垣の腕に押し付け、不敵な笑みを浮かべ言った。

 だが、シンプルな嫌悪感を覚えた新垣は即答で断る。


「え、嫌だ」

「えー?あたしみたいな美人から告られるなんて、相当ラッキーだよぉ?」

「ごめんなさい。あんまりそういう事分からないんで......」


 新垣は急いでその場をあとにした。

 姿が見えなくなったころ、女子大生は大声で叫ぶ。


「ふざけんなー!黙って付き合えばいいのによー!」


 校門まで行くと、校門前で華格院が待っていた。


「早かったな」

「えぇ!?何でいるんですか!?」

「いやぁ?何となく?」

「理由になってないですよ......。てか、俺の大学の場所分かったんですね」


 新垣は気づかなかったが、華格院は手提げ袋を両手に携えていた。


「ん?何ですかその大量の紙袋」

「これか?」

「はい」

「帰ったら説明してやる」

「な、なるほど?」


 そう言って、新垣と華格院はアパートに向かって歩き出す。だが、初夏というのに、外はかなり暑い。早朝の山奥だから涼しかったが、これほど暑いとは思っても居なかった。

 そして、家に着くと、そこはまさに真夏だった。窓を開けていない上に、部屋の構造上、熱が籠りやすいのだ。


「「暑!?」」

「ちょ、冷房つけましょ!冷房!」


 新垣は慌てて冷房の電源を入れる。そして、三十分もすれば暑さも落ち着いてきた。

 そして無償にお腹が空いていると思ったら、気づけばもう昼の時間だった。


「お腹空いた」


 華格院がそう呟く。


「あ、そうめんでよかったら作りますよ」

「なら早く作ってくれ」

「てか、その前に袋の中身を教えてください」

「いいだろう」


 その中身は、スマホ(最新型)

 華格院の下着(各4枚ずつ)

 華格院の服(上下共に4着、寝巻き含む)

 華格院の化粧用品(高級ブランド)

 華格院用の小さい鞄(高級ブランド)

 その他諸々の生活用品、雑貨

 全部華格院用の私物だった。

 そして、ついで程度に置かれたレシート。

 その合計金額なんと約22万円!


「高!?何でこんなに買ったんですか!?」

「百鬼夜號を止めたら、人間界に永住するつもりだ。あと、何か用事があって高級レストランや、ホテルに行っても困らない服装にしたかった」

「意外に理由がしっかりしてて安心しました」


 新垣は安堵の表情をうかべる。


「早くそうめんを作ってこい」

「あ、そういえばそうでしたね」


 湯を沸かし、そうめんを湯がく間、華格院は自分のスマホの設定を終わらせた。

 ちょうどその時、そうめんが湯がき上がり、二人はそうめんを食べた。

 次の日の朝も山奥で修行をし、大学に行き、家に帰る。そして、部活には行かないという日が3ヶ月ほど続いた。

 そして遂に、妖力を込めることを覚えたのだ。

 雨上がりの山奥で乾いた音が響く。


「こんな感じですか?」

「出来てるな」

「じゃあ、妖力を解放してみろ」

「やってみます」


 新垣が全身に力をこめる。

 身体が紫に光り出した。


「紫か。まあ、妥当だな」

「妥当なんですか?」

「大抵の場合、最初は紫だ。まあ、また説明してやる」

「妖力が解放出来るようになったから、次は常時解放と妖刀の扱いだな」

「妖刀?」


 新垣は疑問の表情なのに対し、華格院は腕を組んで、そんな新垣を見つめていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る