わたしのなかのもうひとりのわたし。

【真美の独白モノローグ


 ――わたしのなかに、もうひとりのわたしがいる。


 そのは真美が幼いころだったかな……。

 気が付けば、もうそこにいたのかもしれない。


 両親が共働きで、いつもお留守番だった私は、

 ひとりぼっちの寂しさを埋めたかったのかな?

 いつしか空想の中で初めての友達が出来た。


 私は嬉しかった。お友達と過ごす時間が増えて、

 一人のおうちも全然怖くなくなった。

 もう一人の私は、おにいさんでもあり、

 おねえさんでもあり、おとうとでもあり、

 いもうとでもあった。


 ある日、お父さんとお母さんにお友達を紹介した。

 最初は、お人形遊びみたいなことかと笑っていたけど、

 そこにいないお友達と、ずっと会話を続ける私が、

 気味が悪かったのかな。特にお父さんから、

 あんなに叱られたのは初めてだった。


 幼い私は混乱したの。逆に褒められると思った。

 真美、一人でおるすばんが出来て偉いねって……。

 もう一人の私も、お利口さんだって。


 だから私はもうひとりのお友達を胸の奥に閉じ込めたの。

 ずっと、ずっと。

 閉じ込めるはずだった……。


 だけど無理だったみたい。何故って?

 今なら分かる。単純な答え。

 だって、それも真美だから。もうひとりのわたし。


 押しつぶされちゃいそうな出来事が、それからいくつも起こった……。

 このまま私、駄目になっちゃうのかな?

 さびしい。くるしい。かなしい……。

 大好きな人と一緒にいたい。

 もしも神様がいるのなら、その願いを叶えて欲しい。

 他には何もいらない。県営住宅に引っ越してきてからも、

 私は近所の神社を見つけて何度もお参りをしたんだ。


 陽一お兄ちゃんと初めて出会ったのも、

 その神社だったね。もう覚えてないかもだけど、

 お兄ちゃんから先に声を掛けてくれたんだよ!!


『お前、ここいら辺で見かけない顔だな。まあいいや!!

 良かったら俺たちと一緒に遊ばないか?』


 私、すっごく嬉しかったんだ……。

 そして、かくれんぼにまぜてくれたね。

 陽一お兄ちゃん、妹の日葵ちゃん、そして私。

 じゃんけんが真美は弱いから、最初から私が鬼だったけど。


 でもね、あんなに楽しい鬼、初めて!!

 狭い境内が何倍にも広がってみえて、夢中でみんなを探した。


『陽一お兄ちゃん、みいつけた!!』


 神社の神様に感謝した。大切な人と一緒がこんなに幸せなんて……。

 その日から陽一お兄ちゃんが私の大好きになったんだよ。


 そして神様はもう一回、お願いを叶えてくれた。

 小学生の時、お別れしたお兄ちゃんと再会が出来たんだ。

 それだけじゃない、素敵なサプライズを用意してくれた。

 大好きな人と一緒に過ごす、ごく普通の日常。

 オートバイで二人乗り出来るなんて夢みたい!!


 あの頃よりずっと広くなった背中に身体を預ける。

 路面からの心地よい振動で、いつしか私は眠くなってしまう。


 ねえ、陽一お兄ちゃん。今だけは夢を見てもいいですか?


 もし私たち二人が大人になれたら、訪れたであろう未来の姿。

 そんなことを夢想してしまう。

 

 早起きして大好きな人の為に朝食を作る。部屋を隅々まできれいにする。

 青空の下、洗濯物を干す。何気ない事が愛おしく思える。

 洗い立てのお兄ちゃんのシャツ。そっと太陽に透かすとキラキラしてみえた。

 とてもきれいだ。


 そして洗濯を干す手を止める。

 私の耳にはオートバイの排気音が聞こえてくるから。


 あの丘のむこうから、もう少しで見えるはずだ。

 大好きなお兄ちゃんの姿が!!


 この幸せがいつまで続くのか分からないけど、

 あと少しだけ、大好きな人と一緒にいたい。


 お願い、もうひとりの真美わたし

 あと少しだけ時間をください。


 この身体ごと、群青の蒼に飲み込まれてしまう前に……。


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