第11話 現状報告

 リオドは帝都に戻りすぐに皇帝に報告を行った。サレア皇帝は報告を聞き、すぐに残りの三柱騎士トリアスと近衛騎士団長のアベル。聖女アーデルハイト、そして――今代の勇者であるマイトが謁見の間に集まった。


「リオド卿、改めて報告を」

「はっ」


 宰相から促されリオドは報告を開始した。魔大陸オルデナレニアへ赴き何を見たのか、何があったのかを説明し始めた。リオドの説明を聞き、特にティルの話が出た所で勇者であるマイトの眉が動く。そうして戦闘後、すぐに退散した所までの報告がリオドから行われた。


「さて、次にミティス卿、報告を」

「はっ」



 リオドと同時に進行で命令を受けていたミティスは報告を始めた。


「私は大樹ラーゼスへ向かいました」



 その言葉に流石にマイトは口を挟まずにいられなかった。



「おい、待て。今なんていった。ラーゼスへ行ったのか?」

「ええ。その通りです」

「死にたいのか。あそこは――」

「理解しています。真祖の吸血鬼であるケスカの居城であるという事は。勘違いしてほしくありませんが私の目的は討伐ではなく確認です」


 そういうとミティスはまた皇帝の方へ視線を戻した。


「ラーゼスを汲まなく捜査してみましたが、既に魔人の気配はなく、ケスカの姿もありませんでした。先ほどのリオドの報告を合わせて考えると恐らく既にオルデナレニアへその住処を移動させたのではないかと考えます」


 そう報告をしてミティスは一歩下がった。次にユーラが一歩前に出る。


「ではユーラ卿、報告を」

「はっ。私はマリリダダラの拝殿へ行きました。以前より目撃されておりました光の

 大精霊ルクスと接触に成功しました」


 この世界に満ちる魔力の集合体であり、自我を持った存在。それが大精霊だ。6体の大精霊がこの世界に存在しており、アーラはそのうちの1体である土の大精霊オプスと契約している。

 

「ふむ、反応はどうだ」

「はい。


 光の大精霊の居場所は以前より判明していた。既に多くの人間がルクスと契約しようとマリリダダラの拝殿へ訪れている。


 

「参りましたね。まだ


 

 そう言葉を零すアーデルハイトに勇者マイトと近衛騎士団長のアベルが疑問をぶつけた。


「あのルクスについて、何か知っているのですか」

「私も初耳です。光の大精霊ルクスについては気の多い精霊として有名ですが、誰も長く続かない。近衛兵からも契約をまで至った者はおりましたが数日で契約を解除されてますからね」


 光の大精霊ルクス。通常、大精霊は気難しい性格をしている場合が多く、契約は困難だ。だがその判明契約すれば絶大な力を手に入れる事が出来る。それゆえ、多くの魔法使いは大精霊の契約を夢見る。その中で光の大精霊ルクスはもっとも契約しやすい精霊として有名であった。ただし、長く契約出来たものは1人もいない。長くて数日。早いと契約して数時間で解除される場合もある。


「ええ。昔一度とある人間に強く迫り、盛大にがあるのです。それ以降、自分を振った者を恨むようになり、見返そうと優秀な魔法使いを見つけては契約をしていた時期がありました。アレはその名残なのです」


 そう語る聖女の指す人物をその場にいる全員が想像する。光魔法の使い手であり、聖女の知り合いであり、大精霊を袖にする人間なんて1人しか思いつかない。



「ごほん。さて皆ご苦労だった。アーラについては定期的にルクスの様子を監視するように。長くあそこに住んでいるため動く事はないと思うが、念のためだ」

「はい」

 

 皇帝の指示にアーラは頷きた。



「次にリオドとミティスの報告の件だ。話を総合するにケスカの移動ほぼ間違いあるまい。次の魔王はケスカと組んでこちらに攻めてくる。出来ればケスカだけでも無力化したい所だが……」


 そういって皇帝は勇者マイトの方を見る。それに苦渋を堪える顔で答えた。


「俺には無理です。セルブスっていう使徒相手に手も足も出なかった。言い訳をするつもりもありません。俺に勇者としての力量が欠如しているのはよくわかりましたので。でも1つ質問があります。なぜあの時の討伐に貴方達トリアスはいなかったのですか」

 

 

 エマテスベルに見切りをつけ、聖女の説得によりマイトは既に勇者という力に固執していない。魔王なら倒せるかと思ったが聖女から聞かされた情報によると今代の魔王はケスカ以上の化け物の可能性が高いときた。ケスカの手下にすら苦戦する自身の力量に、マイトは心底理解したのだ。自分の出番はないと。そのため、聖女アーデルハイトの勇者の移植という提案に乗ったのだ。

 そこで帝国に来てみればどうだ。明らかに勇者であるマイトに近い能力を持つ者が3人。しかもそのうち1人は明らかにマイトより格上の力を持っているときた。そうなると疑問もわく。なぜあのケスカ討伐作戦に帝国が参加しなかったのか。



「帝国の剣である三柱騎士トリアスは参加しなかったのではない、出来なかったのだ」



 皇帝の言葉にマイトは困惑した。どういう事なのか。


「我ら帝国もあの作戦への参戦の要請をだした。だがそれを拒んだのは他でもないエマテスベル7世である。勇者に任せておけ、そういわれたため我らは参加を見送ったのだ」

「――! あの王の仕業でしたか」


 マイトは唇を噛みながら考える。もしあの時帝国の協力があれば少し状況が変わっていたかもしれないと。帝国皇帝直属騎士である3人は全員マイトと同等以上の力を持っている。いやそれどころか、三柱騎士トリアスのトップであるミティスの力はマイトを遥かに超えているのだ。


「事情はわかりました。それで俺の勇者の力はミティス殿に?」

「それについてだがな。移植については少し保留となった」

「保留……ですか」

「そうだ。我らは異世界人を召喚し戦力として鍛え上げている。ミティス達の報告によるとたった1年で既にゴールドランクレベルの力を身につけているという事だ」


 その話はマイトにとっても驚愕だった。ゴールドレベルという事は勇者となる前の自分と同じくらいの力だという事だ。


「異世界人というのはそこまで強くなれるのですか?」


 マイトの質問にミティスが答えた。


「魔力を使わない純粋な肉体だけの格闘戦闘であれば、一般の兵士にも勝てませんが、やはり魔力運用能力が桁違いです。そして3人とも魔法を覚えて数日で属性転化も習得しました」

「馬鹿な!」


 あり得ないとマイトは叫びたかった。属性転化は魔法戦闘においては奥義に近い技術だ。マイト自身も属性転化が使えるようになったのは冒険者になって10年経った頃でそれでも早い方だと言われている。それを経った数日で習得するなんてありえない。



「事実です。神から頂いたという才能の影響もあるのでしょうが、成長速度が驚異的なのです。それゆえ、勇者の力の移植についてはもう少し待ちたいというのはそこから来ています」

「……異世界人に勇者の力を?」

「それも視野にいれています。もしかしたら後数年で私たちを追い抜く可能性すらありますので」


 そう笑顔をで話すミティスに気おされるようにマイトは言葉を飲んだ。確かに驚異的だ。もしかしたら本当に数年でマイトを追い抜き強くなる可能性を秘めているのだろう。


(昔の自分なら憤慨するだろうな。力に溺れていたあの頃の俺なら。だが本当にいいのだろうか)



 この世界の争いにまったく関係ない世界の住人を巻き込むという事にマイトは賛成ではなかった。確かに強力な兵に成長しているのだろう。だが勇者という重荷まで負わせることにマイトは悩み続けた。

 

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