第8話 才能
「とりあえず怪我は治ったわね。それにしても……なるほどね。ただの混色魔力ってわけじゃなさそうだわ」
「一応ミティスさんと一緒に魔力属性を変化させる訓練で色が混ざらないようにはしているから、それでかな」
「混ざらないって――マジ?」
何やらすごい驚いた顔をしている。やっぱり珍しいのかな。
「うん。ほら」
そういって人差し指に魔力を集め、火、水、土と魔力を変換していった。流石に随分慣れてきたからスムーズに出来るようになっている。
「なにそれ――ちょっと非常識ね」
「そうなの?」
「普通の水に赤い絵の具を混ぜてから青の絵の具を入れたら普通色が濁るでしょ? それと同じようなもんなのよ。複数属性の使い手って別に珍しくもないから私も学校で見た事あるけどやっぱり色は濁るのよね。さっきも言った通り色、つまり多属性の魔力が混じると属性転化は出来ないの。でもヤマト君は複数属性で属性転化を、しかも同時に行った。これって結構びっくりすることなんじゃないかしら」
そっか。俺だけ足手まといになってるんじゃないかと思ったけどそれなら役に立てそうかも。
「しばらくは制御方法を学んだ方がいいわ。ああそういう事かしら」
「何が?」
「ミティス様がヤマト君を私の所に連れてきた理由よ。多分ヤマト君が多少無茶をして怪我をしても私の回復魔法の訓練になるから一石二鳥みたいな狙いがあるんじゃないかな」
「なるほど……」
そう呟いて自分の手を見る。さっきまで皮が焼け、血だらけになり激しい痛みがあった右手だったが今はその傷もない。確かにこれなら多少無茶をしても平気かもしれない。
そうして新しく覚えた力をリコさんと一緒に鍛え初めて数か月が経過した。最近ではミティスさんとの模擬戦が減ってきている。どうやらかなり忙しいらしい。そのため、最近では学園の中にある修練所の一部を借りて特訓をしている。
「おらぁぁあ!」
「っ!」
ユイトさんの炎を纏った拳を腕を交差して防御する。衝撃を受け止めきれずそのまま後ろに吹き飛ばされてしまう。
「まだまだぁ!」
歯をむき出しにして笑うユイトさんが足元を爆発させこちらに向かって追撃を行おうと接近してきた。それを迎撃するために空中で土の魔法を作り出す。鋭利な杭のような形をした土を属性転化で金属に変化させ射出した。するとユイトさんの纏っている炎の温度がさらに上昇し身体が少し揺らいで見える。
「あまぇんだよお!」
迫りくる金属の杭を殴り、躱しながら接近してくる。地面に手をつき足で地面を削りながら後退する中で、さらに地面から金属の棘を大量に作り出した。あの速度のままで当たれば致命傷になる。でもユイトさんなら躱すだろうというある意味信頼から取った攻撃だった。案の定、空中で爆発が起き、不自然な角度で空中に移動したユイトさんがいた。右手に籠められた魔力がさらに肥大化し燃え滾る炎となって僕の方へ向けて投げた。
その炎と同じだけの量の魔力を籠めた水球を作り、炎球とぶつけ相殺する。あたりに水蒸気が舞い上がったため、互いの姿が見えなくなった。
(どこだ。いや絶対にどこかから奇襲を――ッ!)
上からすさまじいプレッシャーを感じる。自分の勘に従い後ろに跳んだ。すると上空からちょうど僕がいた場所に拳を振り下ろすユイトさんがいる。拳が地面に当たり更に爆発が発生した。あまりの衝撃に身体が吹き飛ばされそうになる。でも――。
身体に満ちていた魔力をさらに強くする。そのまま前に向かって走り始めた。僕が接近したことに驚いた様子のユイトさんだったがすぐに笑みを浮かべ同じように拳を向けてくる。
「そうなんども」
迫りくる拳をよける。少しでも魔力を弱めると直撃しなくても身体が燃えてしまいそうな程の熱量だ。それでも今は動ける。手を伸ばせば届く距離。拳を握りユイトさんの顔に向かって殴りかかる――フリをして止めた。
「なんだと?」
この土壇場のフェイントは効果的だったみたいだ。止めた拳とは反対側の手でユイトさんの腹を抉るように殴った。
「ぐはっ」
「はぁあああ!」
くの字に折れた身体へ追撃をかけるように先ほど止めた拳に再度力を込めて今度こそ全力でユイトさんの顔を殴り飛ばす。数mほど吹き飛ばされたユイトさんだったがすぐに地面に手をつけて体勢を立て直し着地。まだ笑顔を僕に向けているその口からは血が流れているが気にしていないようだ。
「こっからだよな!」
「そんな訳ないでしょ! はいストップ!」
「ちょッ冷たッ!」
僕とユイトさんの模擬戦の審判をしていたリコさんが水球をユイトさんの顔に向けて放っていた。
「今回はヤマト君の勝ち。ほら腕立てしなさいよ」
「くそがぁぁあああ!!」
その光景を見て僕はようやく身体の力を抜いた。数日前、リコさんとの訓練途中でユイトさんが訪れて3人で特訓をするようになった。理由は僕やリコさんと同じらしく教師役だったリオドさんが急ぎの任務に就いたためだそうだ。
そこからユイトさんの提案で模擬戦をすることになったのだが、ユイトさんは強かった。火属性の単色魔力持ちであり、さらに属性転化である爆属性をかなり使いこなしている。どうやら貰った才能というやつが肉体強化の才能らしく、なんと僕が普段使っている魔力の半分で同等の強化が可能らしい。そのため余った魔力をすべて魔法に回すことが出来ると言っていた。それだけ聞くとあまりぱっとしない才能なのかなとも一瞬思ったが実際手合わせしてみると、それがどれだけ凶悪なのかよくわかる。
「ユイトさんよく殴りながら爆発とかできますね。普通指が吹き飛びますよ」
「はっはっはっ! 爆発時に俺の身体に当たる爆風部分は全部避けるように調整しながら爆発の瞬間だけ肉体強化を強めてるからな。燃費も悪くねぇ」
そう僕はもうほとんどの魔力を使い切った。ユイトさんと殴り合えるだけの魔力で身体を強化し、複数属性の魔法を使い、さらに属性転化まで使ってようやくだ。僕がユイトさんの真似をしようと思っても魔力が持たない。普通あそこまで肉体強化をしてしまったら属性転化に回す魔力が足りないのだ。でもユイトさんにはまだ余裕があるみたいで本当に参った。
「何言ってやがる。最初お前が混色魔力って聞いた時はがっかりしたが、ここまでやれるってのは驚きだ。後は体力と魔力量を増やせ。それじゃ持たなねぇぞ。ヤマトとの模擬戦はおもしれからな」
「口動かさないで手を動かしなさいよユイト」
「ああーうるせぇな! リコもちっとは戦えるようにしておけって!」
「私は回復要員なのよ。誰のお陰でそこまで爆属性を組み込んだ近接戦闘が出来るようになったと思ってんの。あんたの吹き飛んだ指を何度も再生させたのは私だってことを忘れるんじゃないわよ」
「わーったよ! わるかった!!」
最初に比べれば僕たちの雰囲気は大分よくなったように思える。この世界にきてもうすぐ9か月くらいだろうか。だいぶ強くなったとは思うけどまだまだ足りない。
「いいか、ヤマト! いい加減リオドの糞爺をぶっ飛ばさないといけないんだ。少し休んだらまたやるぞ。流石に二人掛りで勝てないのはおかしいだろ!」
「はは。そうだね。この間ボコボコにされちゃったもんな」
そうお互いの能力がある程度わかった時にリオドさんが本気で相手してくれたのだが、まったく歯が立たなかった。随分強くなったと思ってたのに軽くショックだったのを覚えている。
「相手は
「何言ってやがんだ。俺は最強になるぜ。そのためにもリオドをぶっ飛ばしてやる!」
「はいはい。頑張んなさいな」
相変わらず口が悪いユイトさんだが何だかんだでリオドさんを尊敬しているのは僕でも知っている。さて、僕もミティスさんに少しでも近づくために頑張ろう。
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