第7話 この世界の魔法
「まあいいわ。別に混色が弱いわけじゃないしね」
「あれ、そうなんですか?」
「そうよ。ただ純粋な火力では単色魔力持ちに勝てないだけで、何も火力だけが武器にはならないでしょう」
それもそうか。応用と工夫でいくらでも覆せるって感じなのかも。
「まあこの世界で強者と呼ばれる人はみんな単色魔力なんだけどね」
「――上げて落とすのやめてくださいよ」
やっぱりそっか。ミティスさんも風の単色らしいからな。いやでも一応混ざらない魔力らしいから特訓あるのみか。
「あ、そうそう。敬語もいいわ。ヤマト君齢幾つ?」
「18です」
「なら1歳しか変わらないもの。ため口でいいわよ。呼び方もリコでいいわ」
「わかり、いやわかったよ。リコさん」
「とりあえずヤマト君はどの程度魔法が使えるの?」
「魔力球を作る所までかな」
そういって人差し指にビー玉サイズの魔力の球を作った。以前に比べ大分綺麗な球体になったと思う。
「へえ。魔力の制御はかなり出来てるほうじゃない。いい、この世界の魔法はね。魔力の制御と魔力量。この2つがほぼ全てと行っても過言ではないわ」
「え、そうなんだ」
「ええ。ヤマト君は漫画とかラノベとか読んでた?」
「うん。メジャーなタイトルはそこそこ」
もっとも部活が忙しくなってからその辺は大分触ってないや。現れて云われると随分へんな気持ちになる。なんせ魔法がある世界にいるのだから。
「いい。まず1つ覚えてほしい事なんだけど、この世界に魔法の詠唱とか呪文とかそういうのはないわ」
そういうと松良さんは自分の手の平からボーリング玉くらいの水球を作り出した。ぷかぷかと浮かぶ水球。それを飛ばすように手を動かすとピッチングマシーンのように凄まじい速度で水球が壁に向かって飛んでいき、パシャンという音を立てて割れた。
「無詠唱魔法がデフォなのか。あれでもミティスさんは――」
いつもの格闘訓練の時はアルスっていう風の防護魔法を使っていたはずだ。あれは呪文じゃないのか。
「ミティス様は確か風魔法だったわね。何か言っていたの?」
「う、うん。いつもミティスさん相手に近接格闘の訓練をしてるんだけどその時にアルスっていう魔法をいつも使ってて」
「アルス。確か帝国で使用する風魔法の防御系魔法の総称だったかしら。そうね次に覚えてほしいのはこの辺だわ。基本無詠唱で魔法は使えるけどチーム戦、いわゆるパーティで戦う場合に魔法名称は唱えることが推奨されているの」
少し難しい話になってきた。
「魔法名称って例えばファイヤーボールとかそういう奴?」
「そう。想像してみて。ヤマト君は前衛で戦っているとしましょう。後衛の魔法使いが大規模魔法を使おうとする。さて無詠唱で飛んでくる魔法に魔物と接戦しているヤマト君は対応できる?」
「――無理だね。どんな魔法が飛んでくるか分からないとどう躱せばいいのか。どこまで下がる必要があるのか。全然想像できないや」
「でしょう。だから本来言葉で何も言わなくても発動する魔法であってもパーティのメンバーに伝わるように魔法名を唱える必要があるわ。もっともソロで戦っている人には無縁らしいけどね」
そうか魔法発動のために名前を唱えるんじゃなくて、周りのみんなに知らせるために魔法名を唱えるって訳か。
「冒険者組合によるパーティだと魔法名称も割とポピュラーなものが多いみたいね。ただ軍所属の魔法使いになるとまた変わってくるわ。ミティス様のアルスもそうね。帝国軍人にしか分からない名称にしているらしいの。これを暗号化された魔法名称って呼ばれてるみたいね」
……そうか。軍って事はそりゃ人と戦う事だってあるんだ。魔法名を唱えて相手になんの魔法が来るかバレてしまえば対策だって簡単にされてるのか。
「あとは属性転化についてかな」
「属性……転化?」
「そ。見た方が分かりやすいかな」
そういうとまたリコさんの手から水が出現する。ただし今度は水球にならず何か形を作っているようだ。これは……。
「水の鳥だ。すごい」
「形は関係ないけどね。まだちょっと時間かかるけど見てて」
その場で羽ばたいている水の鳥。その様子が次第に変わっていった透明だった水が少しずつ白くなっている。いや凍っている? 次第に白く凍っていきしばらくすると完全に氷となった鳥が先ほどと同じように羽ばたいていた。
「6属性ある魔法に対し新しい属性に転化させる技術らしいわ。正直私も練習中ね」
「す、すごい」
「それぞれ属性によって転化できる種類が違うの。火は爆属性。水は凍属性、土は鉱属性、風は雷属性、光は熱属性、闇は冷属性って感じね。それ以外に癒属性ってのもあるわ。私の本命はそっちね」
なるほど、元々ある属性にさらに違う力を付与できるのか。それは確かにすごい力だ。
「そしてこれが単色属性が強いと言われる一番の理由なの。属性転化は多属性の魔力が混じってしまうと出来ない技術だから」
そういいにくそうにリコさんは話してくれた。僕が6種類の属性を持っていると説明したから遠慮してくれているのかな。
「ただ属性転化はかなりの技術が必要でね。これを戦闘で使用できる人は限られているわ」
「え、そうなの? リコさん普通に使えていると思うけど」
「属性転化に5分以上かかってる時点で戦闘じゃ使えないわよ。師匠から最低でも1秒以内に出来ないと使い物にならないって言われてるんだもん」
その辺は僕と一緒か。僕も別属性に変化させるのに随分苦労しているしなあ。
「さて、座学はこんなもんでいいでしょ。とりあえずヤマト君がどの程度出来るか確認させてもらうわ。試しに私の前してあっちの壁に魔法を撃ってみて」
「わかったよ!」
立ち上がり壁に向かって手を向ける。さっきのリコさんと同じ水属性の魔力を作り手の中に集まるようにイメージをする。大きさもボーリング玉くらいをイメージしてッ!?
パシャン。手に集まっていた水が重力に従って下に落ちて弾けた。
「いきなり大きなものを作ろうとしない方がいいわ。さっき見せてくれた小さいサイズでやってみて」
「はい!」
もう一度水の魔力を集める。今度はピンポン玉くらいの大きさだ。そして壁に向かって飛んでいくイメージで水を放つ。放物線を描いて飛んでいく水球だったが次第に下へ下がっていきそのまま壁に当たらず、ちょうど10mくらい飛んで落ちてしまった。
「……難しいな」
「そうね。魔力の練り方はかなり上手いわ」
「でも壁まで飛ばなかったけど」
「イメージの問題ね。なんていうのかな。ただ飛ばすってイメージだとそんな感じになっちゃうわ。飛ばすというより撃ち出すって感じ」
撃ち出すか。確かに水を集めて飛ばすってイメージしかしてないや。もう一度最初からやり直そう。全身から魔力を漲らせる。目を瞑り手を前に出す。作るのは球じゃない弾丸だ。少し細長いライフルの弾みたいなものを想像する。それが回転し、火薬が爆発して撃ち出すイメージだ。
「ちょ、ちょっとヤマト君! 待って!」
集中しろ。頭の中で銃の引き金を引き、撃鉄が落ちるイメージで――撃つ!
何かが破裂した音が聞こえる。手に衝撃は走り思わず後ろに倒れてしまった。
「痛ッ! あれどうなった!?」
「この馬鹿!」
「ぎゃあ!」
頭に痛みが走った。見上げると怒った様子のリコさんがいる。いや様子というより完全に怒っていらっしゃる。
「え。あの、何か?」
「はあ。とりあえず手出しなさい」
「え? 手ってどういう」
「右手よ。怪我治すから」
「怪我? ってああああ!?」
そういわれて自分の手を見て驚いた。手のひらの皮は破れ血が出ている。また指の爪にヒビまで入っているようだ。
「色々言いたい事あるけどとりあえず治療するわ」
「――ごめんなさいお願いします」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます