第5話 聖女
「ではヤマト、行ってきますね。いくつか業務が溜まっているので帰りが遅くなると思いますので」
「はい」
ミティスはランニングに出かけたヤマトを見送り、城へ向けて移動を開始した。屋敷の扉を超え、門を抜けるタイミングで、身に付けている魔力武装型の魔道具に魔力を込め武装を済ませる。碧色のマントを身に纏い、銀色のフルプレートアーマーを装備する。顔を覆う兜がミティスの美しい美貌を完全に隠す。魔力で編み込まれた鎧は使用者の魔力量によって決まる。ミティス程の実力者が使用すればミスリル以上の硬度を誇り、また重さも殆どない。通常のプレートアーマーであればどうしても多少なりとも動きが阻害されてしまう。しかしこの魔力武装は使用者本人に最適化された形で作られるため動きは殆ど阻害されない。
皇帝直属であるミティスは通常の兵士と違い常勤しているわけではない。以前であれば他国侵略行動などを行っていたが既に帝国がいるこの大陸に存在していた国を属国としたためにそれも今はなくなった。現在は残りの魔人が住む領地を探す任務についていたが、新しい命令が下りしばらくぶりに帝国へ戻って来たのが最近の話だ。
「これは、ミティス隊長」
「リオドですか。
登城のため帝都からアウストリッド城へ渡るための橋を歩く途中、ミティスはリオド・オズベルを見かけた。同僚であるリオドはミティス同様に異世界人であるユイト・ロギを任せられている。
「生意気な口を叩くだけあって根性はあります。叩けば伸びるタイプという奴ですな。ただ未だ目上の者に対する態度がなっておりません。一度目は陛下をお許しいただけましたが二度目はありません。それを考えるとユイトにとっての最重要課題は礼儀作法ですね」
「確かにそうですね。以前であった時の様子を考えると優先事項でしょう」
そう2人は話しながら城の中を進んでいく。すれ違う兵士たちは近衛も含め2人の姿を見ると立ち止まり敬礼をしていく。この行為をミティス自身は何度も止めさせようと苦心したのだが、一向に減る気配がなく最近はもう諦めている。リオドと近況の話をしながら目的地でもあるアウストリッド城の中にある近衛騎士団の詰所へ足を踏み入れた。
「お待ちしておりました。皇帝直属騎士である
ミティスたちが屯所に入ると中にいた近衛兵が近寄って声を掛けてくる。
「了解しました。ユーラは既に?」
「はい。既に中でお待ちです」
その近衛兵の後に続き、目的の部屋へ案内された。中に入ると既にユーラと近衛騎士団長であるアベル、そして――。
「お久しぶりです。聖女アーデルハイト・ラクレタ様」
「はい。最後に会ったのは4年前でしたでしょうか。ミティス・ルダールさん」
ソファーに座り、目の前の人物を見る。聖女アーデルハイト・ラクレタ。この世界の創造新でもある神に仕えしラクレタの一族。彼女の確か勇者と同様に血で継承するのではなく、素質を与えられた元は普通の女性だったはずだ。だというのにここまで完成された美があると同じ女性である私でも近くで見ると思わず見とれてしまう。
「ミティス卿。武装は構わないが、せめて兜は外してくれないかね」
「失礼しました。アベル卿」
魔力で編んでいた兜を解除し空中に魔力を霧散させる。
「それで聖女様。勇者殿は?」
「はい。勇者マイトですが、既に彼の恋人と帝都におります。まだエマテスベル国には知られていないでしょう。
勇者マイト・ターゼンの亡命。世間に広まれば一大ニュースになるであろう話。最初陛下からこの話を聞いた時は流石に我が耳を疑った。だがよくよく理由を聞けばある程度納得が出来る部分もある。
「すべては5年後の魔王を倒すためです。もうなりふり構っていられませんからね」
「そうですね」
エマテスベルに潜ませている影からの情報で、既にかの国に人類の希望を託すことが出来ない事はわかっている。魔王を軽視しているのだ。勇者なら倒せるとどこか妄信さえしているように感じる。
もっとも無理もないと思う自分もいる。なんせ先代が強すぎたのだ。3度に渡り魔王を討伐した実績はもはや偉業とも呼べる功績だ。そのため勇者という力に絶対の信頼を置いてしまう気持ちも分かる。いや、間違っていなかったというべきか。
「レイド・ゲルニカの負の遺産。次代の魔王の脅威をいまだ想像さえできないのか」
「仕方ありません。その危機にいち早く気づいたのは私、ヴェノ、そしてルサレア陛下の3人だけでしょうからね」
「だから、聖女様は突然陛下に謁見を?」
アベルは自分の顎髭を触りながら聖女に質問を投げる。
「はい。以前より先を見ている方だと思っておりましたので一度考えを聞こうと思い先月お邪魔させていただきました。今回の魔王討伐は歴史上もっとも困難なものになります。以前のように勇者の力を前面に出した戦争ではまず勝てません。いや負けるだけならそれでもよいのです。一番避けなければならないのは……」
「人類が滅ぶ事。ですね」
私の言葉に聖女は頷いた。
「そうです。今までは勇者と魔王の力が拮抗しており仮に勇者が敗北しても魔王に大きなダメージを与える事が出来たため、次の勇者が誕生するまで持ちこたえる事ができましたが、仮に圧倒的な敗北をした場合、おそらくそのまま人類は滅ぼされる危険性が非常に高い。そのためにより強い人間へ
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