第4話 混色の魔力

 あれから数日が経過した。やる事は基本的に単純だ。午前中はランニングと筋トレ。もっともランニングは屋敷の周囲を走るだけだが……。昼はミティスさんが用意した食事を取り、昼から魔法の訓練をしている。もっともまだちゃんと発動出来ていないけど。


「んーだめだ!」

「ヤマト。もう一度です」


 人差し指に小さな魔力球を作り出す。綺麗な球ではなく少しぼこぼこしたいびつな形をしたその魔力球をそのまま維持する。ミティスさんに指示された魔法訓練の第一段階だ。


「では、この砂時計が落ちるまで維持して下さい」

「はい」


 この砂時計が落ちきるのはおおよそ30分。それまで魔法球を維持する。体内から魔力を練りだすまではすぐに覚えられたけどそれを精密にコントロールするのが非常に大変だ。最初は球体を作ることも出来なかった。それも必死に訓練していびつだが何とか球体になるようにまではなった。問題は次。



「経過しましたね。では次、まずは火属性魔法を」

「……はい!」


 人差し指に集めた魔法球が燃えるように念じる。マッチで火をつける瞬間をイメージするように目の前の魔法球を見つめた。無色の光だった魔法球に色が付き、小さな火球へ変化した。これが第二段階。属性魔法への変化。


「属性魔法への変化まで40秒。目標値は1秒以内です」

「は……はい」


 これが本当に難しい。ミティスさんに習った無色の魔力を火属性魔法に変化させる。ここまではいい。それをもう一度無色の魔力に戻し、次は水球を作る。これを属性が一巡するまで繰り返す。

 しかし魔力を無色へ戻す時に魔力が霧散してしまう。これが本当に難しい。はじめミティスさんに与えられた才能の説明をした所、少し考えた後にこの特訓を命じられた。ミティスさん曰く「精密な魔力コントロールさえ身に付けてしまえば色々応用が効きますから便利」との事だ。



「いいですか。火、水、風、土、光、闇、そしてまた火へ。これを10秒以内に一巡するのが目標です」

「は……はい」



 魔法の訓練は夕刻まで続き、そこから約3時間は初日と同じだ。ひたすら躱すミティスさんに殴りかかる。ただし一方的に攻撃できるわけじゃない。僕が明確な隙を作った場合のみ、ミティスさんは反撃をしてくる。アルスという風の防護魔法のお陰でダメージはないけど、正直ミティスさんの攻撃は全く見えない。気づいたら地面に倒れている。本当に強い人だ。




 夜。魔灯の明かりで照らされた食堂でミティスさんと二人で食事を取る。メニューは日替わりだ。基本的に簡単な料理は出来ると言っていたけれど、正直かなり美味いと思う。僕のひそかな楽しみの1つだ。


「ヤマト。明日ですが、私は城へ呼ばれているため魔法訓練を集中して行って下さい」

「わかりました。――そういえば僕と一緒に召喚された櫓木さんと松良さんって僕と同じように訓練しているんですか?」


 決して仲良しというわけではない。むしろ素行が気になる人だったがやはり同郷だ。気にならないと言えば嘘になる。


「ユイト・ロギですが、現在は城の兵士と混じって教練をしているはずです」

「え? 兵士さんと訓練してるんですか?」


 随分進んでいる。っていうか僕ってかなり落ちこぼれてないだろうか。なんせ未だ基礎訓練しかしてないし。



「ええ。リオドが張り切っているみたいですね。次にリコ・マツラですが学園に通っています」

「……が、学園?」


 また櫓木さんと随分真逆の方向だ。


「はい。本人の希望で授業を学びたいという事でした。指示しているユーラも許可しているそうですし問題はないかと思います」

「なるほど……」



 まずい。これはかなりまずい気がする。絶対遅れてるよ……ちょっと気合入れないとな。




「ヤマトは引き続き私が指示した訓練を継続するようにお願いします。学園に通わせてもいいのですが、今は余計な知識を入れたくないのです」

「えっとそれはどういう――」

「いいですか。この世界における魔法とは人によって得手不得手があります。私の場合は風魔法が得意であり、他の属性は完全に使えません」


 その言葉にゆっくり頷く。


「魔法はよく色で例えられます。以前もそう話しましたね。一般的な呼び方として単色魔力、混色魔力、そう呼ばれています。魔力ははじめ何も描かれていないキャンパスです。無色の魔力に属性を与えると当然色が付きます。火属性の魔法を赤と例えましょう。魔力がすべて赤く染まった状態。これは通常の単色魔力を持った火属性魔法使いの色です」


 そこは分かる。色々教えて貰ってるし。


「では混色魔力の場合、同じように考えましょう。真っ白のキャンパスに2色の色が塗られます。左右に赤と黄。そのような色に染まりました。さてどうなると思いますか?」


 

 え、どうなるって言われてもな。想像してみる。美術で使っていたキャンパス、それを思い出す。赤い絵の具と黄色の絵の具。それを使って塗っていく。……ん、あれでもその場合って……。


 

「――間の色が、混じる。だから混色魔力って呼ばれている?」



 僕がそういうとミティスは笑顔を見せた。



「正解です。2種類の魔法を使うと魔力が混じるのです。混じった魔力は本来の性能を発揮できず劣化します。それゆえ複数属性の魔法が使えるという利点はあれど、単色属性を極めた魔法使いの方が強いのです」

「あ、あれ。それで行くと僕って……」

 


 僕は2色どころじゃないぞ。6色だ。これってそうとう色が混じるんじゃ――。



「いいですかヤマト。君が一番驚異的な部分はそこです。連日やって頂いていた属性変化の訓練がありますよね」

「は、はい」

「あれを見て確信しました。普通の魔法使いは一度色を染めた魔力は、事は出来ないのです」

 

 え、そうなの? 失敗していたがちゃんと真っ白に戻していたはずだけど。


「はっきり言いましょう。驚異的です。だからこそ、繊細な魔力コントロールを身に付ければ、君ならば全ての属性魔法を単色魔力持ちと同様、完璧に使いこなせると思います」

「ほ、本当ですか!」

「はい、だからこそ。今貴方を学園に連れて行きたくない。ここ帝国にあるオウスセゲベル魔導学園は非常に優秀な学園です。しかし力が劣る混色魔力持ちは侮蔑の目で見られがちなのです。それが理由の1つです。」



 ああなるほど。いわゆる差別ってやつか。


「単色魔力と混色魔力ってどのくらいの比率で存在しているんですか?」

「3:7の割合です。また優れた魔法使いがその人の魔力を見ればそれを見分けることも可能です。だから――」

「今僕が学園に行ったら差別の対象になるって事ですね」


 

 ミティスさんの言う通りなら僕の魔力なんて色が混ざりすぎているくらいだ。


「いえ、ヤマトの魔力を一目見てすぐ混色だと気づくものは少ないでしょう。ただ複数属性の魔法を使えば別です。単色魔力持ちでは他属性の魔法を使えませんからね」

「では僕は学園に行かない方がいいですかね」



 ちょっと残念だ。この世界の学園ってのも興味あったんだけどな。



「いずれは行った方がいいでしょう。勉学のためにもです。だから馬鹿にされない程度には鍛えて差し上げますよ」

「はい!」

「じゃ、魔力属性変化を早く取得しましょうね」

「……はい」



 あれ難しいんだよな……。


 





 

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