第2話 対面
まるで美術館のような廊下を歩きながら周囲を見回す。鎧を着た騎士や漫画で見るようなメイドなど本当に映画の世界みたいだ。通り過ぎる際、様々な人が奇異の目で僕を見ているのが分かる。確かに制服のままだし服装から考えても浮いているのだろう。
そのまま目の前のおじいさんについてどんどん歩いていく。というかここかなり広い。最初どこかの家だと思っていたが、既に何回も階段を上っているし、そのたびに兵士のような人たちが見張りをしている扉を通っている。まさかお城とかなのかなと想像するが、実物を見た事がないので判断が付かない。
「さて、ここじゃ。いくぞ」
「……はい」
目の前の大きな扉。その両端に道中みたどの兵士よりも立派な装備をしているのがすぐにわかる。鎧の装飾も、腰に携えている剣もただ武骨なだけじゃなく、見栄えも気にして造られたように見える。
僕たちが近づくと、扉の近くにいた兵士の人たちが扉を開いた。扉の向こうに広がる景色を見て唖然とする。体育館の半分程度の広さの大部屋で両サイドの壁に均等に並んだ兵士たち。鋭い槍を手に持っており、軍隊のように並んでいる。部屋の中央には場違いのような服装を着た2人の日本人がおり、扉が開いたためこちらを見ているようだ。
さらに奥には舞台のような階段がありその奥に椅子が置かれており、さらに立派な服を着た1人の男性が座っている。鋭い眼光が僕を睨みつけているように錯覚し少し委縮してしまう。
「儂はここまでじゃ。あの2人の所まで行くがよい」
「はい。ここまでありがとうございました」
おじいさんにお礼を言って震える身体を鼓舞してゆっくり足を踏み出した。その部屋にいる全員の視線が僕に集まっているのを強く感じる。心臓の鼓動を強く感じ、緊張で転ばないよう一歩一歩しっかり確認するように、歩いて待っている2人の近くまで歩いた。
「さて、集まったようですな」
階段の下にいる髭を生やした男性がそう話しながら一歩前に出た。これから何が始まるのだろうか。さっきのおじいさんがいうにはここで全部説明されるという事だったはずだけど。
「よい、宰相。ここからは我が話そう」
重く低い声が階段の上から響いた。宰相と呼ばれた男は後ろを振り振り向き一礼をしてまた一歩下がった。
「さて、異世界の住人たちよ。まずは自己紹介からするべきだな。我はヴラカルド帝国72代皇帝ルサレア・ワムネル・ヴラカルドである」
――皇帝。その言葉に僕は思わず息を飲んだ。改めて見ると年齢は40代くらいだろうか。皇帝というイメージから想像すると随分若い。
「皇帝か。すげぇな」
横にいる年上っぽい男が、そう呟いたのが聞こえる。よくこの状況で独り言が言えるものだと変な関心をしてしまった。
「どうした。言葉が分かるのだろう。名前を聞いてもよいかね」
そうだ、相手が自己紹介してきたのなら普通に考えればこっちの番か。するとさっき独り言を言った男が一番に話し始めた。
「俺の名前は
色々な意味で驚いた。いきなり目上の人にため口というのもびっくりだし、なんでそんなに魔王討伐に前向きなのかも分からない。そう不思議に思っているともう一人の女性が話し始めた。
「私は
小さい声だがはっきりと聞こえた。顔を見ても無表情のままなので何を考えているか分からない。って次は僕か。
「僕は来栖大和と言います。18歳です。よろしくお願いします」
「なんだ、制服着てると思ったらやっぱり高校生かよ」
「え、ええ。お二人は大学生みたいですね」
櫓木さんと松良さんは2人とも私服だ。さっき聞いた年齢から考えると大学生だろうと思った。僕の質問に二人とも頷いて答えたため、正解のようだ。
「んで、俺らを召喚した理由の詳細を聞かせてくるって聞いたんだけど、あってんのか?」
「あの櫓木さん。相手は目上の方ですし、もう少し言葉遣いを……」
思わず言葉をはさんでしまった。運動部だったせいかどうしてもこういうのは気になってしまう性格なんだが、大学では普通なのだろうか。
「一方的に攫っておいて礼儀を尽くす必要あんのかよ」
そういう理屈だろうか。そう思っていると黙っていた皇帝が話し始めた。
「
魔王か。あの”声”も魔王を倒してほしいと言っていたな。確か5年後に誕生するとか言ってた気がする。
「よくある奴だな。んで誰が勇者なんだ? この面子の中だとまあ順当に考えれば俺だろうけどさ」
「ん、勇者だと。それは誰から聞いたのだ」
皇帝は怪訝な顔をして櫓木の方を見ている。
「なんだ違うのか? こういうのって大体そういう定番だと思ったんだけどな」
「漫画じゃないんだから」
「なんだ、文句あるならもっと声だせよ」
櫓木さんの言葉に松良さんが鋭い一言を言った。小声だったけどやはり聞こえていたようだ。
「まあまあ。落ち着いて下さい」
「ちッそれで勇者はいんのか?」
櫓木の言葉に皇帝は頷いた。
「今代の勇者は既にいる。念のため言っておくがおぬしらではない。そやつはこの世界の住人だ」
「……なんだよ。俺じゃないのかよ。じゃ俺らを召喚した理由はなんだ?」
「事前に話を聞いている通りだ。魔王の討伐のためである」
勇者がいるのにわざわざ違う世界の僕たちを呼んだのか。
「なるほどね。その勇者が雑魚だからそれに協力しろって流れか」
「意味合いは正しいが少し違う。今代の勇者は決して
なんだろう。話を聞いていて妙な違和感がある。これってまるで……。
「なんで次の魔王が強いって分かるのかしら。そりゃ魔王なんだし弱いってことはないと思いますけど。それに次のってことは前の魔王がいたって事ですか?」
松良さんの言葉に確かにと思う。ゲームの世界だと魔王は1人だけのはず。もしかしてこの世界の魔王は称号的な意味あいで魔王を倒したら次の魔王が指名されてりするのかな。それに先ほどの口ぶりだと皇帝はある程度確信している言い方だ。
「そうだ。この世界は魔王討伐から10年後に必ず新しい魔王が誕生する。そしてそれは勇者も同様だ。勇者が死ねばそこから次の勇者が生まれるまで10年時間が必要になる」
10年ごとに生まれる魔王。っていうことはもう何回もこうやって魔王討伐をしているって事だ。
「なるほどね。つまり魔王討伐する度にこうやって俺らみたいに異世界人を召喚してたって訳か」
櫓木がそういうと皇帝はゆっくり首を横に振った。
「いや、おぬしらのような異世界の住人を呼んだのは初めてた」
「はあ? マジかよ。今までは普通に勇者が倒せてって感じか?」
「過去の戦いを振り返ると、勇者と相打ちになる場合が多いのだ。力が拮抗している故だな。そのため各国と冒険者たちを総動員して魔王討伐に挑んでいた。だがその事情が変わったのだ」
ずっと表情を変えなかった皇帝が初めて厳しい顔つきになった。
「これはまだ推測の域を出ていない。だが聖女と大賢者の予想では、次の魔王は間違いなく歴代最強の、いや
「ふーん。いいぜ、俺が勇者に協力して魔王倒してやるよ。当然褒美はあるんだよな?」
「無論だ。魔王討伐完了次第、おぬしらを元の世界に帰還させるのは当然として、相応の金貨を与えよう。この世界に残りたいのなら貴族の地位を授けてもよい。とにかく次の魔王を倒す。これがもっとも重要な課題だ。……まず次の魔王が生まれるまでの猶予は5年間。おぬしらを可能な限り鍛える。そのための協力も惜しまないつもりだ」
褒美という言葉に嬉しそうに反応する櫓木さん。しかしなぜそんなに自信満々なのだろうか。松良さんの方を見るとやはりずっと無表情のためどう思っているか分からない。
「あの……鍛えるというのは具体的にどうするんですか?」
「馬鹿か。そんなもんダンジョンに潜ってレベル上げるに決まってんだろ」
「え、そんなゲームみたいな感じなんですか」
それは流石に違うのではないだろうか。
「こういうのは相場が決まってんだよ。違うのかよ」
「おぬしらの言っている意味がよくわからんな。ダンジョンというのは迷宮の事か? ある程度育ったら行くのは止めぬが、まずこちらの言う通りにしてもらおう。最低限知ってもらうべきことも多くある故な。さて、そろそろ時間か。残りの説明は宰相に任せる。我は次の予定があるのでな」
「お任せ下され。では皆さま移動します。そちらに家庭教師を待たせておりますからね」
宰相と呼ばれた男がまた皇帝に一礼して最初に来た扉へ向かっていった。一応僕も皇帝に頭を下げ、そのまま後を付いていく。先ほどの部屋を出てしばらく歩いてある部屋に案内された。
「入り給え」
宰相の言葉に従い部屋に入ると長いテーブルが1つあり、それを挟むように椅子が並んだ部屋に通された。そしてそこに3人既に先客がいた。多分あの人たちが僕たちを鍛える家庭教師って事なんだろうか。
「さて、ミティス。あとは任せた。先ほど指示した通り好きにやれ」
「は、承知しました。宰相殿」
そういうと宰相はその部屋から出て行った。残ったのは僕たち3人と最初からいた3人の兵士だけだ。立っていた3人のうち、ミティスと呼ばれた兵士が一歩前に出て、手で兜に触れる。すると兜が一瞬青白く輝き、粒子状になって消えていく。すると兜で見えなかった姿を露になった。
「ひゅーいいね。美人じゃん」
飴色の髪に切れ長の瞳、瞳の色は青色で形が整った桜色の唇がよりこの女性の美しさを引き立てているように感じた。
「さて、ここからは私が指揮されてもらいます。まず前提として貴方たちはこれから5年間かけて出来るだけ強くなって頂きます。陛下からお伺いしておりますが、それぞれ特異な才能を授かっていると聞きました」
才能。そういえば何か”声”が言っていた。
「なんだよ、お前らもチート貰ってんのか」
「そんな便利な物じゃないと思うけど」
この様子だと二人が貰った才能は僕と違うのかもしれない。全部の属性が使えるってチートっぽいけど、いいかえれば器用貧乏なだけだしな。そう思っているとミティスさんが突然笑いだした。
「ふふ。そうね、そのレベルから始めないとだめかしら。事前に決めた通りばらけましょう。ユーラ、リオド。よろしいですね」
「はいはい。じゃ、りこちゃんだっけ。君はアタシの弟子にするから一緒に行きましょう」
そういうと、顔を覆っていたローブを外しユーラと呼ばれた女性が顔を見せた。少しおっとりした感じの女性でローブの上からでも身体の起伏が分かるため、少し目のやり場に困る。名前を呼ばれたりこさんは素直にユーラさんについていった。
「なるほど、そうやって分かれる感じか。よし俺の教師をお前にさせてやる」
櫓木さんはそういうとミティスさんを指さした。どうしてこの人はいつも非礼な行動に出るのだろうか。
「櫓木さん。目上に人を指さすのはどうかと思いますが」
「何言ってんだ。チートまで貰った俺はもう最強になるのは確定してんだ。お前がどんな力を貰ったかしらねぇけどそれは変わらねぇ。いいかいいこと教えてやるよ。こういう世界はな強いやつが偉いんだ」
「いや、それと目上の人を指さしていい理由は違うでしょう」
櫓木さんが僕を睨みつける。変なことを言ったつもりはない。無理やりな方法でここに連れ込まれたとしても最低限守らないといけないルールはあると思っているからだ。そう思い僕も櫓木さんの目を逸らさずにいると突然男の笑い声が響いた。
「かっかっかッ! 怖いもの知らずというかなんというか」
3人の中だと鎧とかローブとかの装備もつけていない男性。確かリオドさんだっただろうか。服を押し上げる筋肉から見てかなり強そうだ。
「さてユイトだったか。残念ながらお前はオレとだ。まずは色々教育してやる」
「なに? だったらそこのミティスという女はこいつの教師だっていうのか!?」
そういうと今度は僕に向かって指をさしてきた。もうこの指折るぞ。
「これは決定事項だ。ほらいくぞ」
「ッ! くそ! 放せ馬鹿力!!」
首根っこを掴まれて櫓木さんも部屋から出て行った。残るは僕とミティスさんのみだ。
「さて、そういう訳で私が君の教師役になります。まあユーラも言っていたが弟子のようなものですね。では改めてミティス・ルダールです。どうぞよろしくお願いします」
「来栖大和です。あいや、こっちだと大和来栖ってなるのかな」
「ヤマトが名前ですか?」
「はい」
そう頷くとミティスさんが白く細い手を出してきた。それを見て少し緊張しながらも僕もそれに答えた。
「ではヤマト・クルス。これから5年かけて貴方を強くします。どうかご覚悟を」
「……はい。どうぞよろしくお願いします」
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