第四話 帰り道

 教室に戻ると朝の再現の様にこちらに視線が集まる。とは言っても、朝の様に時間があるわけではないので質問攻めをされることなく、すぐに授業が始まった。授業というのも5限をさぼってしまったのでこの授業で今日の授業は終わりである。


 授業の終わりを知らせるチャイムが教室に鳴り響いた。僕は鞄に持ってきた教科書等を詰めて帰りの支度をする。すると昼の再来の様に教室の扉が開き、鞠が教室にやって来る。


「そうせんぱい!一緒に帰りましょ?」


 教室に入ってから犬の様に一直線で僕の方へ来る。


「そうだな、帰るか」


 僕は準備が整った鞄を肩にかけて席を立つ。すれ違いざまに、自然な感じで彼女の頭に手をポンッと置いて横を通り教室の出口へ向かった。

 教室の扉の前に着くと鞠が付いてきていないことに気が付く。後ろを振り返ると彼女はまだ僕の机の前にいた。彼女は自分の手を頭の上において固まっていた。


「どうした?」

「ふぇ?え、あ、はい!何でもないです!」


 鞠は赤くなった顔でわたわたと慌てた様子でそう言うと、こちらへパタパタと急いで来る。


「じゃ、じゃあ、行きましょうか!」

「大丈夫か?」

「全っ然、大丈夫ですよ!」


 まだ、あわあわしている状態の彼女はそのまま閉まっている扉の前へ行き、教室から出ようとしてそのまま扉にぶつかってしまう。


「あう!」

「一旦落ち着こう?な?」

「ふぁ、ふぁい…」


 ぶつけた前頭葉を涙目で抑えながらこちらを見る。そんな姿を見て僕は少しドキッとしてしまう。僕はそれを誤魔化すようにそっぽを向いてしまう。


「…?」


 彼女は涙目のままそんな僕を少し不思議そうに首を傾げて見る。


「ん゙ん゙っ、落ち着いたみたいだし行こうか」


 僕はそう言ってそそくさと教室を出る。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよー」


――――――――――――――――――――――――――――――――――


「でも意外でした。先輩が教室であんな積極的になってくれるなんて」


 帰り道で隣にいる鞠がそう口を開く。


「まぁ、偽とはいえ付き合っているからな」

「ほんとうにそれだけですかー?」


 彼女はこちらを覗き込んでなにやらニヤニヤしている。


「うっせ…」


 そう言って彼女の頭を無遠慮にぐしゃぐしゃする。


「もー、髪乱れちゃうじゃないですかー」


 そう言いながらも彼女は手を振り払おうとはせず、少し顔を赤らめて頬を緩ませている。


「ほら、帰るぞ」

「はーい」


そう言って僕たちは家に向かって歩き出した。

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