第三話 ことの経緯
鞠は屋上への扉を慣れた手つきで開けるとそのまま屋上へ入る。屋上は立ち入り禁止だったはずなんだが…。
屋上の適当な所で腰を下ろすと、ひとまず弁当を広げる。まぁ僕のはコンビニで買ったやつなのだが。
「えっと…まず、この状況は私のせいです。ごめんなさい」
鞠はそう言って頭をぺこりと下げた。
「いや、別に怒っているとかはないんだけど。正直困惑はしている」
「まぁー、そうですよねー…。言い訳をさせてもらうとですね…」
そう言って鞠は何故この状況になったのか、語り出した。話を要約すると、昨日先輩の告白を断った時に逆ギレされて凄い形相で理由を問いただされたため、咄嗟に彼氏がいると言ってしまったそうだ。そしたらその先輩は付き合ってるのは誰なんだと肩を掴んだりと更にヒートアップして、怖くなって僕の名前を出してしまったらしい。
「…というわけです。まぁ、そう先輩は役得ですね!こんな可愛い彼女が出来たんですから…」
そう気丈に振舞う彼女だが言葉尻も弱く、声が震えていた。
「まぁなんだ、怖かったろ。僕でよければいくらでも頼ってくれ」
僕はそう言うと彼女の頭を撫でた。
「あたりまえですよ…」
そう言って彼女は僕の胸に額を押し付けてくる。僕たちはしばらくそのままでいた。それこそ昼休みが終わり、授業の予鈴が鳴るまでその体勢でいた。
「落ち着いたか?」
「はい…」
「まぁ、さっきも言った通り僕でよければ力になるから何でも言ってくれ」
「…じゃあ、私と付き合ってください」
「おう、いいぞ」
おっかなびっくりな様子だった彼女は、僕の返事を聞くと口をポカンと開けて惚けていた。
「…本当にいいんですか?」
「おう、仮の恋人ぐらいならいくらでも付き合ってやる」
「は?」
「え?」
彼女はすごい冷めたような目をこちらに向ける。暫しの沈黙の後、彼女はため息を吐いた。
「はぁ…、なるほどそう言うことですか。まぁ取り敢えずそれでいいです」
「えっと…?」
「お願いしますってことです」
「お、おう。よろしく」
そこからは少し居心地が良いような悪いよな沈黙ができる。その沈黙を破ったのは僕たちではなく、学校の授業の始まりのチャイムだった。
「えっと、授業始まっちゃいましたね…」
「だね…どうしよっか」
「…サボっちゃいますか?」
「…サボっちゃうか」
そうしてまた、しばらくの沈黙ができる。
「そう先輩…」
「ん?どうした?」
「…恋人っぽいことしてみませんか?」
「…恋人っぽいこと?」
「ほら!そう先輩は私と普段どんな感じか質問された時のために少し恋人っぽいことを経験しとくべきだと思うんです!」
「まぁ、確かに一理ある…のか?」
彼女は顔を赤らめて早口でそう捲し立てる。
「と言っても、何をするんだ?」
そう言うと彼女はもじもじした様子で口を開く。
「えっとじゃあ、膝枕とかしますか…?」
「膝枕?」
「いや、別に私がやってみたかったとかじゃなくて。恋人っぽいことでパッと思いついたのがそれってだけで他意はありませんよ!」
慌てている彼女を見て、多少でも元気がでて良かったと思わず笑みが溢れた。
「も〜!何笑ってるんですか!」
「いやいや、ごめんね」
「ん!」
彼女は体勢を整えて、自分の膝をペチペチと叩く。つまりそういうことだろう。
「ん!」
「じゃあ…、お邪魔します」
僕は膝を枕に横たわる。そこの居心地は最高で、すぐにでも寝れそうであった。
「ど、どうですか?」
「…さいこう、もうずっとここに居たいぐらい」
「え!?えっと、まぁ、言ってくれればいつでもしてあげます…よ?」
しかし、そんな幸せの時間もずっとは続かなかった。そう。授業の終わりのチャイムが鳴ったからだ。そんなに長い時間こうしていたのか。
「そろそろ、授業に戻らないとですね」
「そうだな…」
俺は名残惜しくも、上体を起こそうとするがそれを鞠に止められる。
「どうした?」
「えっと、これはお礼です…。他意はありません…」
そう言って彼女は僕の額に唇を落とした。
「じゃ、じゃあ先輩も早く授業に戻ってくださいね!」
そのまま僕の頭をゴンッと床に落として、パタパタと屋上から走り去っていった。
こうして僕はジンジンする後頭部を押さえて、本当に彼女と付き合えたら幸せだろうなと思いながら教室に向かったのだった。
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