第5話 俺は友達を作って良いのだろうか。
「チリリリ~~!」
いつもよりも大きいアラーム音によって俺は起こされた。
今日は日曜日、ここ2週間は特にイベントも起きず友達も出来なかった。
鈴葉も最近は告白の熱が収まったのか、学校でも友達と楽しそうに話している。
家でも上機嫌な事が多く、暗い顔は見せていない。
そして今日は鈴葉の高体連の日。
弁当がいるとの事だったので5時に起きた。
少し張り切り過ぎかとも思うが、せっかく鈴葉が楽しみにしていたのだ。
俺も全力を尽くしてあげなければ。
体を動かすから重くないおかずにしなければならないが、あまりに軽すぎると本調子を出せないかもしれない。
うーん、悩む。
揚げ物はいつもより少なめにして緑を増やすか、それともその逆で揚げ物を多少増やすか。
悩みに悩んだ結果、俺は緑を増やす方にした。
いつもは入れないアボカドやブロッコリーを入れ、時々入れている一口ハンバーグを抜いた。
弁当の中うまい具合に色が分けられていて白3:茶色3:緑4という対比になっていた。
完成した弁当を風呂敷に包み、保冷の出来る弁当カバンの中に保冷剤と共に入れた。
朝食は弁当に使おうと思っていた一口ハンバーグとベーコン、味噌汁で良いか。
作ってしまったハンバーグをラップで包んだ後、俺は味噌汁の調理にかかった。
~~~
時刻は7時前、今日も親は出勤。
ブラックかと思うかもしれないが、今週は母は水曜日が休みで父は昨日と一昨日が休みだった。
週末出勤お疲れ様ですと思いながら、俺は完成した味噌汁を盛り付けて食卓の上に置いた。
いつも通り鈴葉は起きてこない。
今日も頭を抱え、ため息を吐いた後に鈴葉の部屋に向かう。
部屋の中に入るといびきもかかず、鈴葉は気持ちよさそうにすやすや寝ていた。
肩を摩り、呼びかける。
「おい、起きろ。今日は高体連なんだろ?」
「うぅ……眠たいよぉ……」
「起きろ、遅刻するぞ。8時集合で『明日は高体連、早く起きるんだ!』とか言ってたのはどこのどいつだ?」
「そんなやつ、いないよぉ……」
「分かった、もう俺はお前と――」
「嘘です!私が言いました!起きます、起きます!」
ふっ、この反応毎回思うが面白いな。
毎回俺が最終手段として魔法の呪文を唱えるが、唱えた瞬間に鈴葉は目をかっぴらいてすぐさま起きる。
まあ、これでも一回だけ起きない事があって本当に口聞か無くなったらどうなるんだろうって思ってやってみたけど『お兄ちゃん、ごべんなさぁい……!私が悪かったからぁ!』ってガン泣きで俺に抱き着いて来た事があったな。
面倒な事になるからもうしないけど、あの時は最高に背徳感が得られて楽しかったな。
鈴葉を起こし、食卓に白ご飯とおかずを置いた。
先ほど置いておいた味噌汁はすっかり冷めてしまっていた。
俺が「温め直そうか?」と聞くと「大丈夫」と鈴葉に返されてしまった。
流石に緊張感が出て来たのか、少しづつ言動が固くなってきた。
俺は昨日洗濯しといた鈴葉のユニフォームと上から羽織るジャージを脱衣所に置き、カバンの中にサポーターとバレーシューズを入れてリビングに置いた。
「ここに置いといたからな。ユニフォームとジャージは脱衣所だから、飯食ったら着替えて来い」
「ん、ありがとうお兄ちゃん」
鈴葉が朝食を食べ終え、ユニフォームに着替えて戻って来た。
「ねえお兄ちゃん、似合ってるかな?」
「ああ、似合ってる」
太ももまで見えてしまうほど短いズボン、赤を基調としたユニフォームの背中には『6』と書いてあった。
「えへへ、まあ私リベロだからキャプテンとかも出来ないし皆とユニフォームの色、違うんだけどね」
リベロか、確か守備専門の役職で前衛に出ずローテーションもせずにずっと後衛でレーシブを取る役だったはず。
小学生の頃から鈴葉はリベロをしていて試合でもかなり活躍していて凄く上手いはず。
現に一年生ながらもスタメンを勝ち取り試合に出れると言うのに、鈴葉が浮かない顔をしていた。
「どうした?顔が暗いぞ」
「いや、何かずっとリベロしてて思ったんだけど、私も前衛に出て思いっきり打ちたいなって」
「なるほどな。でも俺はリベロ、凄く大事な役だと思うぞ」
「そうかな……?」
「だって、前衛に出てる人って常にアタックしたりブロックしたりで体力を消耗してるだろ?」
「うん」
「でもさ、相手にサーブ権が渡ってとんでもないサーブが来たら、疲れ切っていてサーブが取れないとかも多々あると思うんだ。でも、リベロがいることによって前衛の人は安心したらダメかもしれないが、多少は体力を温存出来るし、リベロがレシーブしてくれればセッターが上げて三弾攻撃が容易になる」
「でも……」
「鈴葉の性格上前衛に出て、思いっきり打ちたいのは分かる。でもバレーはチームスポーツだ、鈴葉一人の力では勝てない、でも逆を言えば鈴葉の力が合わさる事でチームが勝てる。そういうもんだと思うけどな」
「……」
「だから、頑張ってこい。俺はギャラリーから鑑賞してるから、応援してるぞ」
鈴葉は照れ臭かったのか俺に顔を見せないようにして、脱衣所に行った後「行ってきます!」と気合の入った声で言い、出て行った。
因みに、シューズバックも弁当カバンも持って行ってなくて鈴葉が家に帰って来たのは俺たち兄妹だけの秘密。
~~~
自転車を漕ぎ、高体連開催場所のスポーツセンターまで来た。
時刻は8時。
第一試合開始前だと言うのに人だかりが出来ていて、とても中に入れるような状況じゃない。
どうしようかと思っていると不意に後ろから声がした。
「もしかして、伊藤恭吾さんですか?」
優しそうな透き通った声、声の正体が気になり後ろを振り返ってみるとそこにはありえない美少女がいた。
長い金髪の髪、一本一本分かれていてまとまったような髪ではなく一目見ただけでも分かるほどサラサラしている。
それに日本人離れした顔、微かに日本人の面影も感じる顔面だがどの部位も明らかにレベルが違う。
大きな瞳、キレイに整った二重、長く丸みがかったまつ毛、整えられた眉、うるおいのある唇と肌。
容姿端麗とはこのことを言うのだと思わせてくれる。
「あ、えっと……」
道の真ん中に立ち尽くす一人の少女に俺は目を奪われ続けた。
風が吹き、彼女の髪がなびく。
木の葉が少女の周りをヒラヒラと舞う、その光景が幻想的でまるでアニメの世界にいるのかと思わせてくる。
「私はの名前はジナイダ・ペルコフタ・山之内。涼真さんに助けられてずっと探していたのですが、今日やっと見つけました」
ジナイダと名乗った少女は、俺に近づき俺の手を握る。
急な事で俺はドキッとしてしまいどうすれば良いのか分からなくなってしまった。
そもそも、助けたってなんだ。
俺は何かあったかと思い返してみると、高校入学式初日に一人の女の子を学校まで道案内した事があった。
関わる事も無いと思い、俺は案内した後はそのまま教室に向かったんだっけ。
言われてみれば、深い帽子を被っていたものの隙間から薄っすらと金色の髪が見えていたかもしれない。
「その、私ずっとあなたの事探してて……」
「な、なるほど」
「わ、私とお友達になってくれませんか!?」
助けてあげたお礼が友達になるということか。
友達作りを失敗した俺には嬉しい限りだ。
だが、こんな美少女と友達になってしまって大丈夫だろうか。
まず鈴葉に何か言われるのは間違いないとして、クラスで孤立していた人間が急に美少女とお話をしていたらクラスメイトはどう思うのだろうか。
まあ良い、今は目の前の問題を解決しなければ。
「えっと、まずはお話しませんか?お互いの事をまだあまり知らないですし……」
「そ、そうですね……先走っちゃってすみません……」
少女はそう言うと、俺の目の前に来て深々と頭を下げた。
周りにいた人たちが、なぜか俺に視線を向ける。
なんか、俺が悪いみたいになってね?
周囲の視線が痛かったので、俺は少女の手を引き休憩場に連れて行った。
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